アストロアーツ製「日食観察プレート」の安全性について
【2012年5月18日 アストロアーツ】
「星ナビ」2012年5月号増刊「金環日食を見る」・「星ナビ」6月号付録の「日食観察プレート(A5判)」、および「日食観察プレートB5版」は、太陽直視観察用フィルターの規格である欧州規格(EN 1836:2005+A1:2007/カテゴリーE15)に相当する濃さがあり、安全に太陽を観察することができます。
月刊「星ナビ」6月号や5月号増刊「金環日食を見る」に付録、または単独で販売していたアストロアーツ製「日食観察プレート」では、安全に太陽を観察することができます。
日本には「日食めがね」の規格がない
直接に肉眼(視力矯正用の眼鏡の使用も含む)で太陽や日食の観察をするには、「日食めがね」と総称されている製品に使われている減光フィルター(太陽直視観察用フィルター)が必要です。この減光フィルターについての規格や安全基準に関した法律・規制などは日本国内には存在しません。
減光フィルターの安全性を語るうえで、JIS T8141という規格が援用されることがあります。JIS(日本工業規格)とは日本の国家基準のひとつですが、これは溶接作業や溶鉱炉などで働く作業者のための「保護眼鏡」の遮光度や形状に関する規格であり、太陽の観察と直接的には関係がありません。欧州規格EN 169や、ドイツ工業規格DIN 4647-1も、溶接を行う作業者のための「保護眼鏡」の規格で、こちらもT8141と同様に太陽観察器具に関する規格ではありません。
欧州における「日食めがね」の安全基準
欧州圏では、光の波長ごとの眼への影響や太陽光の波長ごとのエネルギーを加味した減光フィルターの規格が1997年に策定されました。これは、EN 1836という規格書内に「太陽直視観察用フィルター」の規格(カテゴリーE12〜E16)として記されています。その後、EN 1836は改訂が行われ、現在(2012年5月時点)ではEN 1836:2005+A1:2007が最新版となっています。
欧州圏では欧州指令89/686/EEC(個人保護具)という市民の安全を守るための法律があり、減光フィルターはEN 1836で示されるカテゴリーE12〜E16に準拠し、さらに製造工場の品質管理に問題がないこと(ISO9000取得が必須)が証明された場合のみ販売が許されます。また、その製品には「CEマーク」が貼付されています。したがって、海外製の日食めがねにおいては、EN 1836に準拠していることが明記され、CEマークが貼付されていることが安全性のひとつの目安となります。
「日食観察プレート」は国内で製造されていますが、国内には欧州圏のような認証機関がありません。そこで、国内の第三者機関にて独自に透過率の測定を行い、紫外線(280〜380nm)、可視光(380〜780nm)、赤外線(780〜2000nm)において、欧州規格(EN 1836:2005+A1:2007)のカテゴリーE15に相当する安全な透過率を持っていることを確認しています。
2012年金環日食日本委員会が発表した安全性の目安
「日食めがね」の安全性に対する関心が高まる中、2012年金環日食日本委員会が「安全性の検討材料となる数値」として、「可視光線で0.003%以下、赤外線で3%以下」という目安を発表しました。この目安は、EN 1836の中でも最も透過率の高い(=明るく見える)カテゴリーE12の最大値(可視光は比視感度と標準光源の分光放射強度で重み付け、赤外線は上限 1400nmまでの太陽の分光放射強度で重み付け)とほぼ一致しています。「日食観察プレート」のカテゴリーE15は、この数値を大きく下回る(=より透過率が低くて暗く見える)ものです。
ちなみに、ISO(国際標準化機構)では、第94技術委員会による減光フィルターの国際規格が策定されつつあります。2011年には草案がまとめられ、さらに数値や表記の見直しが進められています。減光フィルターに関しては、今後はこの規格がもっとも準拠すべきものであるといえますが、最新の草案を見る限り、内容的にはEN 1836のカテゴリーE12での最大値(すなわち、2012年金環日食日本委員会が目安としている数値)と同等です。
なおアストロアーツ「日食観察プレート」の素材である「カーボンブラック配合ポリ塩化ビニル樹脂(厚み0.7mm)」は、国立天文台が独立行政法人科学技術振興機構発行の科学教育誌「ScienceWindow」を介し、全国の小中高校に「日食めがね」の例として配布した星の手帖社製の「太陽観察安全グラス(組み立て式)」に採用されている減光フィルターと同じものです。
アストロアーツ製「日食観察プレート」の波長別透過率
提供元:日本パール加工(測定は理研化学株式会社に依頼)
波長域 | サンプル1 | サンプル2 |
---|---|---|
紫外透過率313nm | 0.0000127% | 0.0000141% |
紫外透過率365nm | 0.0000062% | 0.0000125% |
視感透過率(可視光 380〜780nm) | 0.000725% | 0.000720% |
赤外透過率(近赤外 780〜1300nm) | 0.0458% | 0.0437% |
赤外透過率(中赤外 1300〜2000nm) | 0.4536% | 0.4366% |
- 上記は日本工業規格(JIS T8141)に定める測定解析方法に基づいて計測した数値です。
- 各波長域の定義は以下のとおり。
紫外透過率は、単純な単一波長の透過率
視感透過率は、明所比視感度と光源(ハロゲンランプ)のスペクトルで重み付けでの積分値
赤外透過率は、単純な加算平均
日食観察グラス(※)「明らかに危険な製品の見分け方」
2012年金環日食日本委員会ウェブサイトより
不適切な透過率の製品と公表されたもの
- デメテル株式会社「日食観賞用グラス」
(2012年金環日食日本委員会参照)
主なチェックポイント
- 室内の点灯した蛍光灯を見て、一見して明るく、形がはっきりと見える製品
可視光線(目に見える光)を十分に減光している製品の多くは、かすかに蛍光灯を確認できる程度の見え方です。 - 可視光線や赤外線の透過率が高い製品
安全性の検討材料となる数値として、 可視光線で0.003%以下、赤外線で3%以下という目安があります。(あくまで目安) - LEDライトなどの強い光にかざした時に、ひび割れや穴が確認できるもの
(※)製品名はさまざまです。
参考画像
室内の蛍光灯にかざしてみたときに一見して明るく形がはっきりと見えている例。(イメージ)