デジタルカメラによる天体写真撮影の技術は、この10年ほどの間に大きく進化を遂げました。デジタルカメラの高感度化などの機材の性能アップだけでなく、画像処理テクニックの向上もこれを後押ししています。これによって光害地であっても美しい天体写真を簡単に撮影できるようになりました。
光害地での撮影では、バックグラウンドの明るさのムラの除去がうまくいかないという問題があります。これを補正する手段として、「フラットフレーム」を撮影してフラット補正を行うという技法が一般的ですが、ここでは、天体画像から作成したフラットフレームを用いる「セルフフラット補正」の方法を解説します。
右の画像は、東京の渋谷で撮影したM27(こぎつね座のあれい状星雲)です。8cm屈折望遠鏡を使って、ISO 500、30秒露出で300枚撮影し、コンポジット合成したものです。
この画像では、背景に赤みがかったムラや、撮像チップ上のゴミなども写っています。
この画像をそのまま強調処理すると、下のように余計にムラが目立ってしまいます。
光害地で撮影した画像に発生する光ムラの原因には、以下のようなものがあります。
望遠鏡のフードで除去しきれなかった光が鏡筒内に反射し、光のムラになります。
これを防ぐには、反射が起こりにくい素材で長いフードを作成し、望遠鏡に取り付けます。
バックグラウンドが明るい光害地での撮影では、どうしても光学系の周辺減光が目立ってしまいます。これを補正するには、天体画像処理ソフト「ステライメージ」の機能で周辺減光や傾斜カブリを補正します。
ステライメージによる処理で補正しきれない場合には、フラットフレームを撮影してフラット補正を行います。この場合は、イメージセンサ上のゴミの影や感度ムラも補正できるという利点もあります。そのため、この方法は都会地での撮影に限らず、空の暗いところでも有効です。
フラットフレームの撮影には、主に次の2つの方法があります。
いずれの場合も撮影感度は本撮影と同じにして、露出時間で画像の明るさを調整します。また、露出時間をあわせたダークフレームも撮影しておき、フラット画像に対してダーク補正も行います。できれば複数枚撮影して、コンポジット合成をすることでノイズの影響を少なくします。
なおフラット補正は、コンポジット前のすべての画像それぞれに対して行う必要があります。
フラットフレーム撮影の詳細はFAQ「フラットフレームの撮影方法は?」もご参照ください。
上空にあるチリや霞などが地上の明かりを反射して、ムラになっている場合があります。 これを補正するには、本撮影と同じ状況で半透明のフィルターを使って撮影を行い、明るさのムラだけが記録されたフラットフレームを得ます。
本撮影とフラットフレームは時間を空けずに撮影する必要がありますが、地上の光源がたくさんあって変化が大きい都会地などでは、上空の明るさのムラが本撮影時とは違ってしまうので、フラット補正がうまくいきません。
この問題は撮影後に補正することが難しく、湿気が少ない透明度の良い夜に撮影する必要があるなど天候頼みになってしまいます。
「セルフフラット」は、撮影画像そのものから撮影ムラの情報を引き出してフラットフレームを作成し、このフラットフレームでフラット補正をするというテクニックです。空の状態からくるムラやチップ上のゴミなども補正可能で、フラット画像を撮影していない過去の画像も補正できるのがポイントです。
ここでは、ステライメージ8を使ってセルフフラット処理を行う手順を解説します。
コンポジット済みの画像から背景ムラを抽出してフラットフレームを作成し、コンポジット済みの画像に対してフラット補正処理を行います。背景ムラ抽出の都合上、天体の最も暗い部分が背景の最も明るい部分より明るいことが、処理がうまくいく条件です。
まずコンポジット済みの画像を用意し、ステライメージで開きます。
操作:
画像を複製して、もう1枚をセルフフラットフレームに加工していきます。
まず、「スターシャープ」処理を行って写った星を消します。「スターシャープ」は、ぼやけた恒星像を小さくしてシャープにするための機能です。
操作:
星雲の境界部分の明るさ値を取得します。
操作:
取得した値をもとに、星雲が白く飛んで背景のムラやゴミが浮き上がるようレベル調整します。
操作:
「レベル範囲外切り詰め」を実行し、白く飛んだ天体部分の情報を切り捨てます。
操作:
作成したセルフフラットフレームをFITS形式で保存します。
操作:
STEP3で作った画像をフラットフレームとして使い、STEP1の段階の画像(コンポジット済み画像)に対してフラット補正を行います。
操作:
もしフラット補正後に星雲のすそのあたりが消えてしまうようであれば、STEP3に戻り、レベル調整のハイライトを前回より少しシャドウ側に寄せて「レベル範囲外切り詰め」を行います。
フラット補正がうまくいくと、明るさや色のムラ、ゴミなどがきれいに消えます。
以上で「セルフフラット補正」ができました。この後は、多少強めの画像処理を行ってもきれいに仕上げることができます。
操作: