超新星爆発ニュートリノで生まれた元素テクネチウム98

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超新星爆発で起こる原子核反応のモデル計算から、反電子ニュートリノが放射性元素「テクネチウム98」を生成することが導き出された。この元素の痕跡を隕石中に探せば、太陽系形成に先立つ超新星爆発の年代が測定できると期待される。

【2018年9月6日 国立天文台量子科学技術研究開発機構

太陽の8倍以上の質量で生まれた恒星は、一生の最期に超新星爆発を起こす。その際、中心部から大量のニュートリノが放出され、すでに存在している原子核と核反応を起こして新たな核種を生成する。6種類あるニュートリノのうち、5種類によって生成される原子核は特定されていたが、「反電子ニュートリノ」が関与してできる原子核は知られていなかった。

量子科学技術研究開発機構の早川岳人さん、国立天文台の梶野敏貴さんたちの研究チームは、原子核の詳細な構造の計算と超新星爆発のモデルから、超新星爆発の反電子ニュートリノから放射性元素テクネチウム98(98Tc)が生成されることを見出した。

超新星爆発ニュートリノによる元素生成の模式図
超新星爆発ニュートリノによる元素生成の模式図(提供:量子科学技術研究開発機構リリースページより)

98Tcは420万年ほどの半減期でルテニウム98(98Ru)に崩壊するため、太陽系形成時に存在していたとしても46億年の間になくなってしまい、天然には存在していない。しかし、太陽系形成時に98Tcが存在していた場合には、始原的隕石中に含まれる98Ruの量の計測から太陽系形成時の98Tcの量がわかる。

超新星爆発で生成された物質の一部が原始太陽系に混ざることを示した模式図
超新星爆発で生成された物質の一部が原始太陽系に混ざることを示した模式図(提供:量子科学技術研究開発機構リリースページより)

研究の結果、超新星爆発が太陽系形成の直前に起こった場合は、隕石に残される98Ruの量は測定可能なほど多くなることが示された。今後、隕石の研究が進めば、98Ruの量の測定をもとに、太陽系が誕生したときに元素を供給した超新星が太陽系形成年代よりもどれくらい前に爆発したかを知ることができるようになるだろう。

超新星ニュートリノが生成する放射性元素で測る太陽系の時間
超新星ニュートリノが生成する放射性元素で測る太陽系の時間(イメージ)。特定の放射性元素の痕跡を隕石から見いだすことで、太陽系の物質がいつ作られたかがわかると期待される(提供:国立天文台)

98Ruの量から98Tcの量を見積もれば、超新星爆発で放出された反電子ニュートリノの平均エネルギーも決定できる。これは、超新星爆発のメカニズムの理解や「ニュートリノ振動」といった物理現象の理解につながる。

「今回の結果で、超新星ニュートリノの正確なエネルギー分布を知る手がかりが得られました。ハイパーカミオカンデなどの将来のニュートリノ観測器によって超新星ニュートリノが測定されたら、超新星のさらなる解明に今回の研究が役立つでしょう」(早川さん)。

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