宇宙最初期の銀河に迫る新ミッション「バッファロー」
【2018年9月19日 ヨーロッパ宇宙機関/HubbleSite】
宇宙で最初に誕生した銀河の形成と進化を知ることは、宇宙を理解する上で不可欠である。これまでにハッブル宇宙望遠鏡(HST)などによる観測で、非常に遠方の(初期宇宙に存在する)銀河が見つかっているが、数が少ないため、果たしてそれらが初期宇宙の銀河を代表する存在であるかどうかを判断するのは難しい。
そこで、より多くの初期宇宙の銀河を発見、観測して銀河の進化に迫ることを目的として、HSTを使った新しいミッション「バッファロー(BUFFALO)」が始まった。これは、2013年から2017年までに実施された「フロンティア・フィールド」と呼ばれる、6つの銀河団を観測したミッションの後継となるもので、より広い範囲の観測を行う。
銀河団に含まれる莫大な質量が生み出す重力により、銀河団の背後に位置する遠方の天体からの光は曲げられたり明るくなったりする。この「重力レンズ」効果を利用すると、HSTの高い能力をもってしても検出できないような暗い天体の姿までとらえることができるようになる。HSTと銀河団の重力レンズ効果の組み合わせにより、最も遠方に位置する初期宇宙の銀河を観測できるというわけだ。
公開された画像は、くじら座の方向約40億光年彼方に位置する銀河団Abell 370とその周辺の様子だ。弧状に引き伸ばされている像が、銀河団の重力レンズ効果を受けた遠方の銀河である。とくに目を引く、中央やや左下の像は1個の渦巻銀河の像がいくつも重なって見えているもので、「ドラゴン」という愛称が付けられている。
バッファローの具体的な目的は、最も質量が大きく明るい銀河がいつどのように形成されたのか、また宇宙初期の銀河形成がダークマターとどのように関係しているのかを調べることにある。また、観測で得られる広い視野の情報から、各銀河団に存在する普通の物質とダークマターの両方の分布について、従来より質の高い3次元マップを描くことが可能になる。その分布から、重力レンズの役割を果たしている銀河団の進化や、ダークマターの性質などに関する情報も得られると期待されている。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関:BUFFALO charges towards the earliest galaxies
- HubbleSite:Hubble Goes Wide to Seek Out Far-Flung Galaxies
〈関連リンク〉
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