宇宙の重元素の起源を、核融合科学と天文学の協力で紐解く

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元素が吸収する光の波長などに関する「原子過程データ」を計算から構築した結果が、中性子星同士の合体現象に由来する現象「キロノバ」の分析に有用であることが確認された。中性子星合体で作られる重元素の起源解明に向け、核融合科学と天文学の協力が進められている。

【2019年2月26日 核融合科学研究所国立天文台

2017年8月、中性子星同士の合体に起因する重力波と共に、「キロノバ」と呼ばれる強力な爆発現象に伴う電磁波が、すばる望遠鏡などの光学望遠鏡で初めてとらえられた(参照:「連星中性子星の合体からの重力波を初検出、電磁波で重力波源を初観測」)。その際に観測されたキロノバの光を理論予測と比較した結果から、他の爆発現象では作られない金やレアアースを含む多くの重元素がキロノバによって生成されることが示された。生成された重元素は電磁波を吸収し、その電磁波を莫大なエネルギーとして放射する。

中性子星合体で放出された物質中で生成された重元素が電磁波を吸収、再放射する様子
中性子星合体によって放出された物質中で生成された重元素が電磁波を吸収し、再放射している様子の想像イラスト。中性子星合体で生じるキロノバ放射には、様々な重元素による電磁波の吸収と放射が入り混じっている(提供:国立天文台)

生成された重元素の種類や量を詳しく知るためには、元素が吸収・再放射する光の波長や強さといった元素の固有情報である「原子過程データ」を使った分析が必要となる。ところが、重元素については世界基準で広く使用されている原子過程データが極めて少ない。

そこで、キロノバの光の解析に向け、天文学分野と核融合分野の共同研究が行われた。

核融合科学研究所では、高精度な原子過程データを計算によって構築する国際共同研究を進めている。計算の対象としてきた元素は中性子星合体で生成される重元素とは異なるが、計算手法の応用は可能だ。同研究所の加藤太治さんたちの研究チームは、原子過程データに関する実験データや先行研究が最も豊富な重元素の一つ「ネオジム」に注目し、計算コードの拡張や最適化を行って大規模計算を行った。

その結果、ネオジムが吸収する約300万通りの波長の光に関する原子過程データを求めることができ、その計算精度が従来より大幅に向上していることが確認された。

こうして得られたネオジムの原子過程データを利用して、中性子星合体で生成されたネオジムによる光の吸収・再放射のシミュレーションが行われ、原子過程データの精度に起因する不確かさが評価された。定量的に見積もった誤差は十分に小さいものであり、今回の新たな計算手法がキロノバからの光の分析に対して信頼性の高いものであることが確認された。

今後、同様の計算手法を用いて他の重元素についても精度の高い原子過程データを構築することで、中性子星同士の合体で生成される重元素について詳しい分析が可能となる。宇宙に存在する貴金属の量や種類を明らかにする研究が、大いに加速することが期待される。

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