リュウグウにはやはり水があった
【2019年3月26日 JAXA宇宙科学研究所 (1)/(2)/(3)/(4)】
「はやぶさ2」は2018年6月にリュウグウに到着して以来、様々なリモートセンシング観測や重力計測などの科学観測を行ってきた。3月20日、これらの観測で得られた初期成果が3編の論文にまとめられ、『Science』誌のwebサイト「First Release」に掲載された。この3編の成果を順に紹介しよう。
リュウグウ表面で含水鉱物を発見
会津大学の北里宏平さんたちは、「はやぶさ2」に搭載されている近赤外分光計(NIRS3)を用いて、2018年8月までにリュウグウの表面全体の約9割で近赤外線の反射スペクトルを得た。その結果、波長2.72μmの位置に弱い吸収が見られることがわかった。この吸収線はOH基(水酸基)によるもので、結晶内部にOH基を含む鉱物(含水鉱物)がリュウグウの表面に存在する直接的な証拠となる成果だ。
なお、昨年8月2日の記者説明会では「リュウグウでは水は枯渇している」との発表が行われたが(参照:「予想外、水が枯渇しているリュウグウ」)、これは水による吸収線が非常に弱く、分光計の誤差との区別が難しかったことを踏まえての説明だったとのことだ。その後、追加のデータを取得して再解析を行った結果、検出器の誤差を低減することができ、2.72μmの吸収が確かに存在することを確認できたという。
また、リュウグウのスペクトル全体の特徴は、過去に加熱または衝撃を受けた炭素質隕石に最もよく似ていることがわかった。このため、リュウグウもかつて何らかの加熱または衝撃を受けた可能性があると思われる。どのような加熱・衝撃現象をリュウグウが経験したのかは、「はやぶさ2」が持ち帰る試料を分析することで明らかになると期待される。
リュウグウの母天体候補を特定
東京大学の杉田精司さんたちは、「はやぶさ2」の光学航法カメラ(ONC)や熱赤外カメラ(TIR)、レーザー高度計(LIDAR)で得られたデータから、リュウグウの母天体やリュウグウ形成の歴史を明らかにする研究を行った。
リュウグウのように地球軌道に接近する小惑星は、火星と木星の間にある小惑星帯から移動してきた天体だと考えられている。だが、リュウグウのように直径1kmにも満たない小さな小惑星は、46億年前の太陽系形成直後から現在の姿を保ってきたわけではなく、最近数億年以内に別の「母天体」の破片が集合してできたと考えるのが自然だ。
そこで杉田さんたちは、小惑星帯に存在する「小惑星族」(軌道要素が似通っている小惑星のグループ)に着目した。小惑星帯には「ベスタ族」などいくつもの小惑星族があり、それぞれの族の中で最大の小惑星にかつて別の小天体が衝突したことでたくさんの破片のグループが生まれた名残だと考えられている。研究チームでは、小惑星帯の中で内寄りの軌道を公転していて、しかもリュウグウと同じC型小惑星からなる「族」をピックアップした。
C型小惑星の族としては、ポラナ((142) Polana)、オイラリア((495) Eulalia)、エリゴネ((163) Erigone)という小惑星をそれぞれ中心メンバーとする3種類の族が存在している。そこで、これらの小惑星とリュウグウ全球のスペクトルを比較したところ、ポラナまたはオイラリアがリュウグウのスペクトルとよく一致することがわかった。杉田さんたちは、この2つの小惑星のどちらかがリュウグウの母天体である可能性が高いと考えている。
リュウグウの形・構造
リュウグウはそろばんの珠のようなコマ(独楽)型をしていて、表面に岩塊が多く存在している。この起源を明らかにするため、名古屋大学の渡邊誠一郎さんたちのチームは、「はやぶさ2」の光学航法カメラの画像やレーザー高度計のデータから、リュウグウの精密な3次元形状モデルを作成し、分析を行った。
分析の結果、リュウグウ全体の密度は1.19±0.02g/cm3であることがわかった。これは氷の密度に近く、リュウグウは非常に軽い天体だということになる。だが、リュウグウの温度環境を考えると、内部が氷であることは考えにくい。仮に炭素質隕石と同じ物質からできているとすると、リュウグウの体積の50%以上は空隙だという結論になり、このことからも、リュウグウは瓦礫が集まった「ラブルパイル天体」であることが示された。
また、リュウグウには長径160mの「オトヒメ岩塊」など、巨大な岩塊が数多く存在している。これらはリュウグウのクレーターから放出されたとすると大きすぎるため、過去に母天体が衝突破壊されてできた破片が再び集合した際に持ち込まれたものだと推定されるという。
さらに、リュウグウは現在7.6時間周期で自転しているが、この自転速度ではさほど遠心力が強くないため、リュウグウが現在のコマ型になったのは、過去に自転がもっと速かったためと考えられることもわかった。表面の傾斜の分析から、3.5時間周期だったとすると現在の形をよく説明できるという。
(文:中野太郎)
〈参照〉
- JAXA宇宙科学研究所:
- Science:論文
〈関連リンク〉
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