リュウグウに残された「衝撃の痕跡」を実験で再現

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小惑星リュウグウに似た隕石に人工的な衝撃を加える実験で、リュウグウ試料にも見られる亀裂などの構造が再現された。小惑星で発生した衝撃があまり強くなかったことが示唆され、リュウグウが「がれきの山」のような構造をしているという説を裏付ける結果だ。

【2025年8月13日 広島大学

小惑星リュウグウは炭素を多く含む「C型小惑星」に分類され、探査機「はやぶさ2」が持ち帰った試料の分析から、鉱物の種類や化学的な特徴がCIコンドライト隕石にとてもよく似ていることがわかっている。また、リュウグウ試料の表面には層が重なったような構造の岩石が多く見られ、過去の衝突による衝撃の痕跡とみられている。

これらのことから、リュウグウは何度も衝突を受けて壊れた岩石が再び集まってできた「がれきの山(ラブルパイル)」型の小惑星であると考えられている。こうした衝突は、岩石の鉱物や有機物の性質を大きく変える重要な現象だ。

広島大学の宮原正明さんたちの研究チームは、1864年にフランスで発見されたCIコンドライト隕石「オルゲイユ隕石」の一部(国立極地研究所に保管)と、1998~1999年に南極で採取されたCIコンドライトに似た隕石「Yamato 980115」を使った実験により、小惑星衝突時に隕石内部でどのような変化が起こるのかを再現した。

オルゲイユ隕石とYamato 980115隕石の試料
(左)衝撃実験に用いたオルゲイユ隕石の試料(薬包紙の上の黒い粒)、(右)南極隕石「Yamato 980115」の切断作業の様子(提供:プレスリリース)

これらの試料は非常に貴重なものであることから、宮原さんたちは小さな隕石試料にも使えるように実験方法を改良したうえで衝突を再現し、鉱物や岩石の構造の変化を調べた。すると、約4GPa(約4万気圧)以下の弱い衝撃では鉱物や岩石の構造に大きな変化は起こらなかったが、約4GPaを超えると水を含む鉱物や有機物が水分やガスを放出し、その圧力で岩石が割れ目に沿って壊れやすくなることがわかった。さらに、約10GPaを超えると、岩石の一部が溶けて泡のような構造をもつガラス状の物質(アモルファス物質)ができることもわかった。

実際にリュウグウの粒子を調べたところ、一部に脱水や脱ガスの痕跡が見られるものの、多くの粒子では明確な変形や溶融は確認されなかった。実験結果と合わせて考えると、多くのリュウグウ粒子は比較的弱い衝撃しか受けていないことが示唆される。リュウグウの一部に高い圧力がかかり、水を含む鉱物や有機物が急に水やガスを放出して岩石が飛び散ったが、岩石そのものは強く壊れず、その破片がもう一度集まってラブルパイル構造ができた可能性が高いとみられる。

リュウグウ粒子と衝撃実験後の隕石試料に見られる衝突の痕跡
リュウグウ粒子と衝撃実験後の隕石試料に見られる衝突の痕跡(電子顕微鏡写真)。(a)リュウグウ粒子、(b)人工的に4GPa以上の衝撃を加えた隕石試料。ともに平行に近い亀裂が発達している。(c)リュウグウ粒子、(d)人工的に10GPa以上の衝撃を加えた隕石試料。ともに泡のような構造をもつガラス状のアモルファス物質が見られる(提供:Nakahashi et al. 2025

今回明らかになった現象は、リュウグウだけでなく多くのC型小惑星にも共通している可能性がある。今後はリュウグウ粒子にわずかに残る衝撃の痕跡を詳しく調べたり、小惑星の深部に埋もれていると予想される強い衝撃を受けた物質の存在を探ったりすることも重要となるだろう。

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