二重小惑星探査機「ヘラ」、打ち上げ成功

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10月7日、欧州の小惑星探査機「ヘラ」が打ち上げられた。ヘラは2年前に探査機「ダート」の衝突実験が行われた小惑星「ディモルフォス」に接近し、軌道や衝突クレーターなどを調べる。

【2024年10月8日 ヨーロッパ宇宙機関

日本時間10月7日23時52分、二重小惑星探査機「ヘラ(Hera)」を搭載したスペースX社のファルコン9ロケットが米・フロリダ州のケネディー宇宙センターから打ち上げられた。探査機は予定どおりにロケットから分離した後、地上との通信を確立し、打ち上げは成功した。約2年後の2026年12月に「ディディモス」と「ディモルフォス」から成る二重小惑星系に到着する予定だ。

「ヘラ」の打ち上げ
「ヘラ」の打ち上げ(提供:Space X

ディディモスは直径780mほどの小さな天体で、地球に接近する可能性がある「潜在的に危険な小惑星(Potentially Hazardous Asteroid; PHA)」に分類されている。これまでに地球の近くを通過する軌道をもつ「地球接近小惑星」は3万個近く発見されていて、なかには今後100年以内に地球に衝突する可能性があるものも(直径100m以下のものばかりだが)含まれる。そのような天体に探査機を高速で衝突させて軌道を変えることができれば、当面は地球衝突の脅威を回避できるが、衝突させるための技術実証や小惑星の素性の調査、衝突後の影響などを調べることが重要である。

衝突の技術実証としては、2022年9月にNASAが地球防衛実験探査機「ダート」をディモルフォスへ時速約5kmで衝突させる実験に成功した。これによってディモルフォスの軌道が5%ほど縮小したことが確認されているが、今回のヘラのミッションでは、さらに詳しい調査が実施される。

「ダート」のディモルフォスへの衝突
フランス・レ・メ天文台がとらえた衝突後のディモルフォスのようす(30分間に起こった事象を数秒の動画に編集したもの)。衝突から数秒でディモルフォスは非常に明るくなり、1分もしないうちに放出された物質の雲が一気に数千km先まで広がったあと、東に流れてゆっくりと消滅した(提供:Les Makes observatory, J. Berthier, F. Vachier / T. Santana-Ros / ESA NEOCC, D. Fohring, E. Petrescu, M. Micheli

ヘラはディディモスに到着後、約半年間にわたって、ダート衝突の影響による軌道の変化や自転の状態、衝突でできたクレーターの形や大きさ、天体の物性などを調べる。また、2機の小型衛星が接近観測を行うほか、ミッションの最後にはディモルフォスへの着陸も試みられる。探査により得られるデータは、「プラネタリ・ディフェンス(惑星防衛)」という宇宙防災活動として小惑星の軌道変更を行うための重要な知見となる。

ディディモスを探査するヘラ
ディディモスを探査するヘラ(左)と2機の小型衛星(右)の想像図(提供:ESA

ヘラとダートは連携して史上初の国際共同のプラネタリ・ディフェンス計画「AIDA(Asteroid Impact & Deflection Assessment)」を構成していて、国際共同の象徴としてギリシャ神話の「結婚の女神」ヘラに因むミッション名が付けられている。また、JAXAも「はやぶさ」と「はやぶさ2」ミッションの技術と知識をもとに、熱赤外線カメラ「TIRI」の提供と科学観測検討でヘラ計画に参画していて、惑星科学とプラネタリ・ディフェンスの両面での貢献が期待されている。

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