宇宙空間でコマのように回転する有機分子を多数発見

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天の川銀河の中心部に位置する分子雲の周辺に、コマのように回転するアセトニトリルが非常に高い割合で存在することが明らかになった。

【2020年8月27日 東京理科大学

宇宙には分子ガスが集まった低温・高密度の分子雲と呼ばれる天体が存在する。分子雲の主成分は水素分子であり、微量ながらメタノールなどの有機分子も含まれている。こうした分子は分子同士の衝突などによって回転し、回転の様子が変化する際に電波を放出するので、電波観測により分子の種類や量、分布などを調べることができる。

分子の密度が高い領域では衝突が比較的頻繁であるため、分子は様々な方向に回転する。一方で密度が低い領域では衝突が少ないため、電波を放出して回転が緩やかになってしまうが、アセトニトリル(CH3CN)のような細長い分子の場合には長軸周りにコマのように回る回転が活発なまま残りやすいという性質がある。このコマのような回転が多い傾向にあるという観測例は知られているが、顕著に多いかどうかはわかっていなかった。

アセトニトリルの回転の模式図
一般的な分子雲(左)と比較的密度の低い分子雲(右)でのアセトニトリルの回転の模式図。一般的な分子雲では分子全体が回転している割合が多くなる。密度の低い分子雲では分子全体の回転は緩やかになり、長軸周りの回転が主に残る(提供:荒木光典さん、いらすとや)

東京理科大学の荒木光典さんたちの研究グループでは、天の川銀河の中心方向に位置するいて座B2(M)分子雲の周辺を国立天文台の野辺山宇宙電波観測所45m電波望遠鏡を用いて観測し、アセトニトリルの量や分布を調べる研究を行った。

密度の薄い領域では、存在する分子の量が少なく電波も放出しにくくなるため、観測がたいへん難しい。そこで荒木さんたちは、分子から放射される電波そのものをとらえるのではなく、分子が吸収する電波の様子をとらえ、そこから分子について探るという手法を用いた。強い電波を光源とした影絵の要領で「影」について調べるようなものだ。

電波吸収を利用したアセトニトリル観測の概念図
いて座B2(M)における電波吸収を利用したアセトニトリル観測の概念図(提供:荒木さん)

観測データを解析したところ、いて座B2(M)分子雲の周辺の希薄な領域に、長軸周りに回るアセトニトリルが多く存在することが示された。コマのように回るアセトニトリルの割合は45%に達しており、これはこれまでの観測で最も大きな値である。もし特殊なふるまいが起こっていなければ、コマのように回転するアセトニトリルの割合は2%程度に過ぎないはずであり、45%という割合が特異なものであることがわかる。

今回確認された特殊なふるまいを考慮することで、分子雲領域におけるアセトニトリルの量や分布を正確に把握できるようになる。アセトニトリルは宇宙空間の有機分子の代表の一つであることから、様々な宇宙空間の有機物の量や分布を知る上でも非常に重要な意味を持つ結果となる。

「地球上の生命は、原始地球への彗星衝突により、分子雲から運ばれた有機物を原料として誕生したとする説が有力視されています。宇宙空間の有機物を知ることは生命起源へのアプローチにもなります」(荒木さん)。

研究のインフォグラフィック
研究のインフォグラフィック。画像クリックで拡大表示(提供:Araki et al. (2020))

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