JWST、生まれたての星を取り巻く有機分子をとらえる
【2022年12月21日 理化学研究所】
地球上の生命を構成する有機分子は、全てが地球で作られたのではなく、ある程度は宇宙空間で生成されたと考えられる。この20年間の観測で、生まれたての星である原始星から地球にも存在する有機分子が検出されるようになった。そうした有機分子は、星の材料となるガスと塵が集まる中で、水などの氷がくっついた塵粒の表面で作られたと考えられている。
塵粒の周りに凍りついた有機分子を特定するには、原始星からの赤外線を分光観測してスペクトルを調べる方法が有効だ。分子はその種類に対応した波長の光を吸収するため、原始星の赤外線スペクトルで弱くなっている部分を調べれば、氷に含まれる有機分子を特定できる。これまでに日本の「あかり」やNASAの「スピッツァー」といった赤外線天文衛星が水(H2O)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)などの単純な分子をとらえているが、有機分子の微弱な信号をとらえるには感度が不十分だった。
これに対し、赤外線分光観測の感度が従来の100倍向上したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が登場したことで、ようやく氷に含まれる様々な有機分子の観測が可能となった。そこで理化学研究所のYao-Lun Yangさんたちの国際共同研究グループは、おおかみ座の方向約500光年の距離にある原始星「IRAS 15398-3359」をJWSTで観測した。
JWSTの観測によって得られた、波長5~28μmの中間赤外線スペクトルには、従来から知られていた水、二酸化炭素、メタンに加え、これまでの観測では確定できていなかったホルムアルデヒド(H2CO、波長6.7μm)、メタノール(CH3OH、9.74μm)、ギ酸(HCOOH、7.24μm)などの有機分子による吸収がはっきりと見られた。また、様々な分子による吸収が混合しているため確定はできないが、エタノール(C2H5OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)といったより複雑な有機分子の吸収もスペクトルに含まれている可能性があるという。
研究チームの目的は原始星を分光観測することだったが、JWSTは分光と同時に赤外線による撮像もしていた。そこから偶然、原始星から噴き出すジェットが作った殻状の痕跡が見つかった。原始星から放出された物質が周囲のガスと相互作用していることを示すものだ。分光観測でも、加熱された分子や電子が特定の波長で発光している様子が検出されている。
今回の観測で氷に含まれる成分が明らかになった一方、氷の存在量を導き出すことは課題として残された。Yangさんたちは今後さらに複数の原始星をJWSTで観測し、今回の結果と比較する予定だ。
〈参照〉
- 理化学研究所:JWSTが捉えた原始星を取り巻く氷の分子-高感度赤外線望遠鏡で複雑な有機分子を初観測
- The Astrophysical Journal Letters:CORINOS. I. JWST/MIRI Spectroscopy and Imaging of a Class 0 Protostar IRAS 15398-3359 論文
〈関連リンク〉
- Spitzer Space Telescope:
- 赤外天文衛星「あかり」(ASTRO-F):
- NASA - James Webb Space Telescope:
- STScI:
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