若い大質量星を成長させる巨大ガス流の「へその緒」

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アルマ望遠鏡の観測で、重い原始星を取り巻く分子雲から「ストリーマー」というガス流が原始星のすぐそばまで伸び、星の材料物質を運ぶ様子がとらえられた。

【2025年8月28日 京都大学

太陽の8倍以上の質量を持つ「大質量星」の赤ちゃん(大質量原始星)は、軽い原始星に比べて急速に成長する。しかし、重い原始星では恒星風や星自体が放つ光の圧力(輻射圧)が強く働き、星に降着するガスが吹き飛ばされてしまう「フィードバック」という現象が起こるため、太陽質量の100倍に達するような大質量星がどうやって生まれるのかについては謎が多い。

フィードバック問題を解決するしくみとしては、分子雲コアのガスがいったん原始星を取り巻く降着円盤を作り、この円盤から原始星へガスが流入するという説が有力だ。実際、近年の観測では、大質量原始星の周りに円盤状のガス構造や細く伸びるガス流(ストリーマー)が見つかっている(参照:「原始星には「近所」のガス雲からも星の材料が流れ込む」「三つ子の赤ちゃん星にガスを届ける渦状腕」)。

京都大学/国立天文台のFernando Olguinさんたちの研究チームは、さいだん座の方向約1万光年の距離にある大質量原始星「G336.018-0.82」をアルマ望遠鏡で観測した。

研究チームは以前にもこの天体を観測しているが、今回は星間塵と分子ガスが放射する波長1.3mmの電波を使い、以前より2.5倍高い解像度での観測に成功した。これは海王星軌道の直径とほぼ同じ、62天文単位の構造まで見分けられる解像度に相当する。その結果、原始星の周りに2本の細いストリーマーが見つかった。

以前の観測では、原始星の周囲に円盤状のガスがあると指摘されていて、ストリーマーは円盤を取り巻く分子雲から円盤の外縁部につながっていると考えられていた。だが今回の観測では想定されていたサイズの円盤は見つからず、円盤があるとされていた領域の内側までストリーマーが伸びている様子がとらえられた。特に、ストリーマーのうちの1本は、1000天文単位を超える遠くから原始星のすぐそばの高密度領域まで直接つながっていた。

大質量星周囲の星間塵から放射される電波の強度分布
大質量原始星「G336.018-0.82」の周辺の電波画像。星間塵から放射される電波の強度分布を描いたもの。☆印が原始星の位置。ガスが矢印に沿って回転しながら落下している。青の矢印のガス流は長さ1000天文単位に達するストリーマーで、分子雲コアから原始星のすぐそばの高密度領域まで、物質を輸送している(提供:F. Olguin)

「この天体は以前にも低解像度で観測しましたが、大質量原始星に伴う円盤構造の典型的な半径を考慮して、円盤やトーラス状の構造が形成されていると考えていました。今回の観測の結果、これまでの予想に反して、円盤構造は存在しないか、極めて小さいことが判明しました。渦状腕構造が、中心の原始星に非常に近い位置にまで達していることは予想外でした」(Olguinさん)。

さらに、原始星周辺に存在するメタノール分子のスペクトルを詳細に解析してストリーマー上のガスの運動を調べたところ、ストリーマーのガスは原始星の周りを回転する運動と、原始星に向かって落下する運動を併せ持っていた。

このストリーマーが原始星のすぐそばまで運ぶガスの量は十分に大きく、原始星からのフィードバックに打ち勝って成長途上の原始星にガスを供給し続けることが十分に可能であることも示された。

これまでの説では、大質量星が生まれる過程では比較的大きな降着円盤が若い原始星に物質を供給すると考えられてきたが、今回の成果は、原始星から遠い領域からすぐそばまで、ストリーマーがあたかも「へその緒」のように、大量の物質を直接運んでいることを明らかにした。これは、少なくとも星形成過程の一時期には、必ずしも大きな円盤がなくても大質量星が成長できることを示唆するもので、フィードバック問題の解決につながるかもしれない。

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