爆発直前に「⾻」までむき出しになった超新星
【2025年8月27日 京都大学/ノースウェスタン大学】
恒星の中心では、高温・高密度の環境で核融合によって元素が合成され、莫大な光・熱のエネルギーが放出される。星の進化が進むほど、中心核の温度・密度が上がって、より重い元素が合成されていき、中心核の周りには元素が重いものから軽いものまで層になった「玉ねぎ状」の構造ができる。
とくに、太陽の10~100倍程度の質量を持つ大質量星では、最終的に中心で鉄が合成され、この中心核が崩壊することで超新星爆発を起こし、ブラックホールができると考えられている。
また、老いた恒星は外層の一部を「恒星風」という質量放出で失う。重い星ではとくに激しい恒星風が発生し、超新星爆発の直前にヘリウムや炭素・酸素の層が露出した「ウォルフ・ライエ星」という天体になることもある。しかし、酸素の層よりも深い部分を直接観測できた例はこれまでなかった。
太陽の8倍以上重い恒星が赤色巨星に進化した段階の内部構造。中心に鉄のコアがあり、その周りをケイ素や酸素、炭素、ヘリウムなどの層が、最も外側を水素の層が取り囲んでいる(提供:Pearson Educationを改変)
2021年9月7日、くじら座の方向約22億光年の距離にある銀河で、超新星「SN 2021yfj」が発見された。この超新星は米・パロマー天文台で運用されている自動サーベイ「ツビッキー突発現象観測装置(ZTF)」で検出されたものだ。
米・ノースウェスタン大学のSteve Schulzeさんたちの研究チームは、ZTFが常時出力する大量の突発現象のアラートの中から「爆発直後の超新星」のみを抽出するフィルターシステムを使い、SN 2021yfjを見つけ出した。Schulzeさんたちは即座にこの天体の分光観測を各地の望遠鏡に依頼し、米・ハワイのケック望遠鏡で爆発から1日後のスペクトルを得ることができた。
得られたスペクトルには、外層を失った大質量星の超新星爆発で見られるヘリウム・酸素・炭素などとは異なり、ケイ素や硫黄の明るい輝線が含まれていた。このような重い元素が爆発直後の超新星で見られたという事実は、「重元素の層が玉ねぎ状に形成される」という大質量星の進化理論を裏付ける結果だ。
超新星の爆発直後のスペクトルには、晩年の恒星が放出した「星周物質」が超新星の強い光で照らされた痕跡も見られることがある。SN 2021yfjの爆発直後のスペクトルからは、ケイ素や硫黄に加え、アルゴンなどの元素も大量に検出された。これは鉄の核の周囲にケイ素・硫黄の層ができつつ、この中心核が激しい質量放出でむき出しになっていたことを示す証拠だという。
SN 2021yfjの爆発直前の想像図。親星から外層の大部分が放出され、ケイ素や硫黄を含む中心核がむき出しになっている(提供:W. M. Keck Observatory / Adam Makarenko))
さらに研究チームは、超新星爆発で放出された物質が星周物質と衝突する過程をシミュレーションし、SN 2021yfjの光度変化をうまく再現することにも成功した。これも、大質量星が爆発直前に外層をほぼ全て失っているというシナリオを支持するものだ。
今回の成果から、「大質量星の進化で中心部に玉ねぎ構造が形成される」という、恒星進化論の最も基本的な枠組みが正しいことが初めて観測的に証明された。一方、ケイ素や硫黄の層までがむき出しになるほどの激しい質量放出が起こるという結果は予想外だった。一般的に考えられる大質量星の質量放出では、せいぜいヘリウム層までしか剥ぎ取れないとされるため、より内部の層を剥がすための極端なメカニズムが必要となる。
今後の探索でSN 2021yfjに似た天体が発見されれば、爆発前の星のいわば「骨」ともいえる深い中心核までむき出しになる進化がどの程度珍しく、どんな物理過程で起こるのか、といった疑問が統計的に明らかにされるだろう。
SN 2021yfjの爆発直後の想像図。星は中心核がむき出しになった後も激しい質量放出を繰り返し、ケイ素(灰色)、硫黄(黄色)、アルゴン(紫色)を含む巨大なシェルができる。これらのシェルが激しく衝突するとともに非常に明るい超新星爆発が起こる(提供:W. M. Keck Observatory / Adam Makarenko)
爆発直前から超新星爆発が起こるまでのシナリオを描いた動画「First-of-its-kind supernova reveals innerworkings of a dying star」(提供:Northwestern University / W. M. Keck Observatory / Adam Makarenko)
〈参照〉
- 京都大学:「骨」まで剥き出しになった超新星−宇宙で稀に見る爆発、元素工場の直接的証拠−
- Northwestern University:First-of-its-kind supernova reveals inner workings of a dying star
- Stockholm University:New kind of supernova explosion reveals a naked star
- W. M. Keck Observatory:First-of-its-kind ‘Bare-Bones’ Supernova Upends Star Evolution Models
- Nature:Extremely stripped supernova reveals a silicon and sulfur formation site 論文
〈関連リンク〉
- Zwicky Transient Facility (ZTF)
- Transient Name Server:SN 2021yfj
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