宇宙誕生期を過ぎても大質量ブラックホールは誕生可能

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スーパーコンピューターを用いたシミュレーション研究により、宇宙誕生期を過ぎ金属をある程度含むという現実的な環境下で、大質量ブラックホールへと進化する超大質量星が形成されうることが示された。

【2025年5月14日 東北大学

大半の銀河の中心には、太陽質量の100万~100億倍の超大質量ブラックホールが存在している。ブラックホールがこれほどの大質量にまで成長するには長い時間がかかるはずだが、近年の観測により、宇宙誕生からわずか数億年の時代にも、太陽の1000万倍を超えるブラックホールが存在していたことが明らかになっている。

120~130億年前の大質量ブラックホール
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡がとらえた120~130億年前の大質量ブラックホール(擬似カラー画像)(提供:NASA, ESA, CSA, Harikane et al.

早く大質量ブラックホールに成長するためには、誕生時点ですでに大きな質量をもっている必要がある。そこで、星が形成される前にガスが一気に重力崩壊し、最初から大質量ブラックホールになる「直接崩壊モデル」が有力な説として注目されている。

ただしこのモデルは、炭素や酸素などの金属(水素とヘリウム以外の元素)をまったく含まない、宇宙初期に一時的にしか存在しない特殊な環境でしか実現できない。そのため、大質量ブラックホールの膨大な数を説明するには不十分だった。

東北大学の鄭昇明さんと大向一行さんは、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」を用いたシミュレーションで、様々な金属量の宇宙環境における大質量ブラックホールの誕生を調べた。

その結果、金属の量が太陽系近傍の0.1%程度以下の環境で、200万年ほどの間に太陽質量の1万~10万倍の超大質量星が形成されることが示された。ガス雲が分裂して生まれた小さな星の多くが中心の星と再び合体し、結果的に非常に重い星が形成されるというものだ。この超大質量星を出発点とすると、多くの大質量ブラックホールが誕生可能となり、大質量ブラックホールの数は直接崩壊モデルで説明できるものよりも大幅に増える。

さらに、金属量が太陽系近傍の金属量の1%ほどの場合は超大質量星は形成されないが、太陽質量の約1000倍の大質量星が作られ、それら大質量星が集まった天体が作られることも明らかになった。この天体は球状星団と似た構造をしている。

星の質量の時間進化と、金属量が太陽系近傍の1%のときのシミュレーション結果
(左)異なる金属量の環境下での、星の質量の時間進化。金属量が太陽系近傍の0.1%程度以下では太陽質量の1万~10万倍まで成長可能な一方、1%程度の場合は約1000倍止まりとなる。(右)金属量が太陽系近傍の1%のときのシミュレーション結果(ガス雲の密度分布)。太陽質量の1000倍ほどのブラックホールが中心に形成され、その周りに小質量星(白点)が多数形成される(提供:東北大学リリース)

今回の成果は、金属をある程度含む現実的な環境において、大質量ブラックホールのもととなる超大質量星が誕生する条件を解明するとともに、金属量の違いによって同じ形成過程から球状星団が作られる可能性も示したという興味深いものである。

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