ブラックホールの自転による超高光度円盤の歳差運動を世界で初めて実証
【2024年9月30日 筑波大学】
ブラックホールの周りには、その強力な重力にとらえられたガスが渦を巻いて形成される「降着円盤」が存在する。ブラックホールが自転していると仮定した場合、降着円盤は回転するコマの軸がぐらつくような「歳差運動」を起こし、その結果、降着円盤を発生源とする光の放射やジェットが時間変動する可能性がある。このことが検証できれば、ブラックホールが回転している強力な証拠となる。
近年、光度が低い降着円盤の歳差運動については、M87銀河中心部のブラックホールの観測などで実証が進んでいる。一方、超高光度降着円盤のように極めて光度の高い降着円盤においても同様の現象が見られるのかどうかは未解明だった。
筑波大学計算科学研究センターの朝比奈雄太さんたちの研究チームは、天文学における最先端の数値シミュレーション技術として、一般相対論的放射電磁流体力学シミュレーションを長年にわたって開発してきた。この手法は従来法とは異なり、放射の影響を考慮することで非常に明るい円盤の挙動が解析できる。
朝比奈さんたちは理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」や国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイ II」などを用いてこのシミュレーションを実施し、超高光度降着円盤の挙動を解析した。その結果、従来の低光度の降着円盤だけでなく、超高光度円盤も歳差運動をすることを世界で初めて実証した。
さらに、歳差運動によって、放射やジェットの方向もブラックホールの回転軸の周りを回るように変化することが示された。一部の超高輝度X線源に見られる、1秒未満から数秒の周期的な光度の変化を説明しうる結果で、超高輝度X線源のブラックホールが自転している可能性を強く示唆するものだ。
〈参照〉
- TSUKUBA JOURNAL:ブラックホールの自転による超高光度円盤の歳差運動を世界で初めて実証
- The Astrophysical Journal:General Relativistic Radiation Magnetohydrodynamics Simulations of Precessing Tilted Super-Eddington Disks 論文
〈関連リンク〉
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