最も重いブラックホール合体による重力波の記録を更新
【2025年7月24日 LIGO科学コラボレーション】
米国の「LIGO」と欧州の「Virgo」、日本の「KAGRA」の、3つの重力波望遠鏡からなる「LIGO-Virgo-KAGRA(LVK)コラボレーション」では、2015年9月から2020年3月までの3期(O1, O2, O3)にわたる観測運転で90個の重力波イベントが検出された。2023年5月からは各検出器の感度を向上させた第4期観測運転(O4)が行われていて、これまでに200個の重力波イベントが見つかっている。
このO4で2023年11月23日13時54分30秒(世界時)に検出された重力波イベント「GW231123」が、解析の結果、137太陽質量と103太陽質量のブラックホールが合体して225太陽質量のブラックホールができた現象によるものだと判明した。
重力波イベント「GW231123」の特徴を解説した図。画像クリックで表示拡大(提供:Simona J. Miller / California Institute of Technology / 翻訳:Shio Sakon)
「GW231123」の重力波の波形。(上)重力波の振幅の時間変化。黒の実線が実データで水色の帯はデータに最も良く合うモデル。(下)周波数分布の時間変化。画像クリックで表示拡大(提供:LIGO Scientific Collaboration)
これまでに検出されたブラックホール合体のうち、合体前後の質量が大きかったものとしては、O2で見つかった「GW190426_190642」(106太陽質量+76太陽質量→173太陽質量)や、O3で見つかった「GW190521」(85太陽質量+66太陽質量→142太陽質量)がある(参照:観測史上最大のブラックホール合体を重力波で検出)。今回のGW231123はこれらの記録を大幅に塗りかえるものだ。
GW231123はLIGOのワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンの検出器で検出され、重力波源までの距離は20億~130億光年と推定されている。検出器2基での検出だったため、重力波源の位置(天球上の方向)は不明だ。
また、合体前のブラックホールがどちらも高速で自転していたこともわかった。解析によると、それぞれの自転速度は一般相対性理論で許される上限値の0.9倍と0.8倍で、これまで重力波で見つかったブラックホール合体の中では最も速く自転している。
恒星質量ブラックホールはきわめて重い恒星の終末に作られると考えられているが、現在の恒星進化論では、質量が130~300太陽質量の巨大星は「対不安定型(電子対生成型)超新星」というタイプの超新星爆発を起こして後には何も残さないため、こうした巨大星から作られる60~130太陽質量のブラックホールはきわめてできにくいとされている。しかし今回合体したブラックホールの質量は、この「ブラックホール質量の空白域」の範囲に入っている。
「これは私たちがこれまでに重力波で観測した最も重いブラックホール連星です。この現象は、ブラックホール形成に関する理解に重大な挑戦状を突きつけるものです。これほど重いブラックホールは、標準的な恒星進化モデルでは説明できません。一つの可能性として、この2個のブラックホール自体がより軽いブラックホールの合体でできたものかもしれません」(英・カーディフ大学 LIGO科学コラボレーション Mark Hannamさん)。
〈参照〉
- LIGO Scientific Collaboration:LIGO-Virgo-KAGRA detect most massive black hole merger to date
- arXiv:GW231123: a Binary Black Hole Merger with Total Mass 190-265 Msun 論文プレプリント
〈関連リンク〉
関連記事
- 2025/05/14 宇宙誕生期を過ぎても大質量ブラックホールは誕生可能
- 2025/04/25 恒星ブラックホールが生み出す“加速器”現象をXRISMがとらえた
- 2025/04/16 ブラックホールからのジェット噴出の条件を解明
- 2024/09/30 ブラックホールの自転による超高光度円盤の歳差運動を世界で初めて実証
- 2024/09/05 ブラックホール周囲の降着円盤の乱流構造を超高解像度シミュレーションで解明
- 2024/08/02 X線偏光でとらえたブラックホール近傍の秒スケール変動
- 2024/04/22 最も重い恒星質量ブラックホールを発見
- 2023/12/04 X線突発天体監視速報衛星「こよう」、打ち上げ成功
- 2023/08/04 合体前のブラックホールは決まった質量を持つ?
- 2023/07/05 「宇宙の灯台」を乱す低周波重力波の証拠
- 2023/04/14 ブラックホールの合体で光は放たれるか?
- 2022/12/08 波長10光年の重力波検出目指し、パルサーを超精密観測
- 2022/12/06 M87ブラックホールのジェットがゆるやかに加速する仕組み
- 2022/12/01 ブラックホールを取り巻くコロナの分布、X線偏光で明らかに
- 2022/11/10 「一番近いブラックホール」の記録更新
- 2022/11/02 中性子星の合体でレアアースが作られていた
- 2022/10/24 観測史上最強規模のガンマ線バーストが発生
- 2022/10/19 中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット
- 2022/07/25 「ブラックホール警察」、隠れたブラックホールを発見
- 2022/06/15 伴星を持たない単独ブラックホール候補天体、初発見