ガス円盤のうねりが示す“原始惑星の時短レシピ”

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アルマ望遠鏡の観測で、原始惑星系円盤の内部に速度の小さな「うねり」が検出された。円盤の重力不安定性で急速に惑星形成が起こるという理論を裏付ける成果だ。

【2024年10月9日 アルマ望遠鏡

若い星の周囲に広がる原始惑星系円盤の中でどのように惑星ができるのかについては、いくつかのモデルがある。これまで有力とされてきたのは、直径数μmの塵の粒子が数千万年かけて徐々に集まり、惑星になるという「ボトムアップ」モデルだ。一方で、物質が濃く集まった部分ほど重力が強まり、さらに多くの物質を集める「重力不安定性」というはたらきによって、円盤内部の渦巻腕が分裂し、短い期間で惑星になるという「トップダウン」モデルもある。

約470光年の距離にある「ぎょしゃ座AB」の原始惑星系円盤では、形成中と思われる原始惑星がいくつか発見されていて、その中には木星質量の9倍という重い原始惑星もある。地球からこの円盤を観測すると、中心星を取り巻く渦巻腕の中に「塊」のように原始惑星が存在する様子を見ることができる。

原始惑星「ぎょしゃ座AB b」
木星の約9倍の質量を持つ原始惑星「ぎょしゃ座AB b」をすばる望遠鏡でとらえた赤外線画像(提供:T. Currie/Subaru Telescope

ぎょしゃ座ABの質量は太陽の2.4倍、年齢は400万年と推定されているが、わずか400万年でこうした原始惑星ができるのはボトムアップモデルでは考えづらいため、これらの原始惑星がどう形成されたのかは大きな謎だった。

理論的には、もしも原始惑星系円盤の質量が中心星の質量の約1割よりも重ければ、重力不安定性によって円盤ガスに渦巻腕ができ、それが分裂・合体するというトップダウンモデルのシナリオで急速に惑星ができるとされている。ただし、円盤の質量を観測から推定するのはむずかしい。

カナダ・ビクトリア大学のJessica Speedieさんたちの研究チームは、原始惑星系円盤のガスの速度に着目し、ぎょしゃ座ABの円盤ガスの動きをアルマ望遠鏡で観測した。

研究チームの一員である米・ジョージア大学のCassandra Hallさんたちは2020年に、高度な流体力学シミュレーションを行って、重力的に不安定な原始惑星系円盤のガスがどんな運動をするのか、また、そのような運動の特徴をアルマ望遠鏡でとらえられるかどうかを予測していた。Hallさんたちは重力不安定が起こっている円盤の運動モデルをみちびき、重力的に不安定な円盤は速度分布に特徴的な「うねり」が見られるはずであることを示していた。

今回Speedieさんたちは、アルマ望遠鏡での観測データから、ぎょしゃ座ABの円盤内部にあるガスの視線速度と位置をマッピングした3次元データを作った。これは円盤の“MRI画像”のようなものだ。研究チームはこの3次元データの断面を綿密に解析し、速度の小刻みな「うねり」を検出した。この結果は、ぎょしゃ座ABの円盤で確かに重力不安定が起こっており、この星の原始惑星がトップダウンモデルで形成されたことを裏付ける観測的な証拠となる。

円盤の速度分布
(左)アルマ望遠鏡で得られた円盤内の一酸化炭素分子(13CO)の視線速度分布。青色は地球に近づき、赤色は遠ざかる向きの速度を持つことを表す。(右)過去にみちびかれた解析的モデル。重力不安定が起こっている円盤では、矢印の部分のように速度分布の「うねり」が見られる(提供:Speedie et al.

Speedieさんたちは、この「うねり」の大きさから主星と円盤の質量比も推定できることを示し、ぎょしゃ座ABの円盤の質量が最大で主星の3分の1に達すると見積もっている。「アルマのデータは、重力不安定性が実際に起こっていることをはっきりと示しています。このような大局的な渦巻き構造と速度パターンを形成するメカニズムは、重力不安定性のほかには考えられません。これはまさに『科学者は研究によって予測し、そして見つけた』という科学の典型的な話です。Hallが予測した重力不安定性の証拠を、私たちが見つけたということです」(Speedieさん)。

ぎょしゃ座ABの円盤の渦巻き構造
(左)ヨーロッパ南天天文台のVLT望遠鏡で撮影されたぎょしゃ座ABの原始惑星系円盤。(右の3つ)アルマ望遠鏡でとらえられた同じ原始惑星系円盤の渦巻腕。画像クリックで表示拡大(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NSF NRAO), VLT/SPHERE (ESO), Speedie et al.)

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