巨大ブラックホールのフレアが電波ジェットを作り出す

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活動銀河核に見られる電波ジェットが作られる仕組みを説明する新モデルが提唱された。太陽フレアと同じ現象が巨大ブラックホールでも起こり、ジェットの源になるという。

【2022年10月7日 東北大学

私たちの天の川銀河を含め、ほぼ全ての銀河の中心部には、太陽質量の数百万倍から数十億倍という超大質量ブラックホールが存在する。とくに活動的な巨大ブラックホール(活動銀河核)では、細く絞られたプラズマ流がほぼ光速で噴出するジェットがしばしば見られ、強い電波を放射することから「電波ジェット」と呼ばれる。電波ジェットを持つ活動銀河核の例としては、史上初めてブラックホールシャドウが撮影されたおとめ座の銀河M87などが有名だ。

M87のジェット
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したM87銀河のジェット(提供:NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

しかし、こうした電波ジェットの生成メカニズムは謎のままだ。とくに、ジェットが加速されるエネルギー源が何なのか、ジェットの材料になるプラズマがどこから供給されるのかがよくわかっていない。エネルギー源の大もとはおそらくブラックホールの回転エネルギーだろうとされているが、ジェットにプラズマが供給される仕組みについては有力な理論がない。

ブラックホールの周囲には、ブラックホールに向かって落ち込む物質がプラズマの円盤(降着円盤)となって大量に存在しているが、ブラックホールのごく近くには強い磁場があって一種の「障壁」となっているため、降着円盤のプラズマを電波ジェットに直接運ぶことはできない。降着円盤から出る強いガンマ線がプラズマをジェットへと運ぶという説もあるが、この仕組みで運べるプラズマの量は、ジェットを作り出すのに必要な量の1/100~1/10000にしかならない。

今回、東北大学の木村成生さんたちの研究チームは、ブラックホールのごく近くで発生する「フレア現象」によって電波ジェットにプラズマが運ばれるのではないかと考え、その理論モデルを構築することに初めて成功した。

鍵となるのは「磁気リコネクション」という現象だ。この現象は太陽のフレアを引き起こしている原因と原理的には同じで、磁力線がつなぎ変わることで磁場のエネルギーが突発的に解放され、プラズマ粒子が加熱される。ただし巨大ブラックホールで起こる磁気リコネクションでは、プラズマ粒子1個に与えられるエネルギーが太陽フレアより約10億倍も大きい。また、X線やガンマ線などの高エネルギー光子が太陽フレアよりもたくさん放射される。

電波ジェットへのプラズマの供給機構
(左)銀河中心のブラックホールの周りには、落ち込む物質がプラズマの円盤(降着円盤)となって取り巻いていて、ブラックホールの両極方向には電波ジェットが噴き出している。(右)今回提唱された、ブラックホールからジェットへとプラズマが供給される仕組み。ブラックホールの表面付近では、磁気リコネクションによって大きなエネルギーが解放され、このエネルギーを得て加速された電子がガンマ線を放射する。放射されたガンマ線光子同士が衝突すると電子と陽電子のペアが生み出され、これが電波ジェットへと運ばれる(提供:當真賢二)

木村さんたちの新しいモデルでは、これまでのモデルに比べて約10万倍も多いプラズマを電波ジェットへと運ぶことができる。また、このモデルでは、ジェットに供給されるプラズマの量は中心ブラックホールの質量やブラックホールに落ち込む物質の量によって決まり、これが銀河ごとの電波ジェットの明るさの違いを生み出すはずだという。

実際の銀河でも、たとえばM87では非常に明るい電波ジェットが見られる一方、より質量が小さい天の川銀河の中心ブラックホール「いて座A*」は静穏で、電波ジェットも観測できないほど弱い。木村さんたちのモデルならこうした違いを自然に説明できる。

今回提案されたモデルでは、中心ブラックホール付近で継続時間が数分という短いX線フレアが発生することを示しているが、これまでのX線観測衛星では、こうした短時間のX線フレアは見逃されてきた。現在、JAXA宇宙科学研究所で計画されている次世代のX線観測衛星「FORCE」や「HiZ-GUNDAM」を使えば、このような短いX線フレアも観測が可能となり、今回のモデルを検証できるようになるかもしれない。

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