火星の地震波が示す、液体の水が地下に存在する可能性

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地球の岩石中を伝わる地震波速度が水の存在や形態によって変化するモデルを応用した計算により、火星の地下約10~20kmの層に水で満たされた割れ目が存在する可能性が示された。

【2024年10月3日 広島大学

太古の火星には液体の海が存在していたことが、表面の地形や鉱物の分布から示唆されているが、現在の火星の表面は乾燥していて、水がどこに行ってしまったのかはわかっていない。アイディアの一つは、火星の内部に水が取り込まれたというものだ。

NASAの探査機「インサイト」は2018年に火星に着陸し、2022年12月まで探査を実施した。インサイトの地震計「SEIS(The Seismic Experiment for Interior Structure)」による探査では、火星の地殻内に地震波の速度が変化する境界である「不連続面」の存在が明らかになり、その理由としては地殻を構成する岩石の種類が異なることや空隙率の変化が提案されている。

インサイト
(左)「インサイト」に搭載された観測機器等を示したイラスト。探査機の左下に描かれているドーム型の機器が「SEIS」。(右)火星表面でインサイトが撮影したSEIS(提供:NASA/JPL-Caltech(左)(右)

一方、地球では、岩石に含まれる水やその形態によって地震波速度が変化することが知られている。広島大学の片山郁夫さんたちの研究チームは、このモデルを火星の内部構造に応用すると、火星地殻で検出された地震波速度の不連続面を水の有無で説明できるのではないかと考えた。

片山さんたちは火星地殻を模擬した物質の地震波速度を実験室で計測し、速度が岩石中の割れ目を満たす水、空気、氷といった物質によって大きく変化することを明らかにした。また、岩石中の割れ目が増えることによって地震波速度が低下する傾向もみられた。これらの実験結果は理論的なモデルとも整合的なものだ。

次に、モデルを用いて火星地殻での地震波速度を計算したところ、火星の深さ約10~20kmの層に水で満たされた割れ目が存在すると仮定すれば、インサイトが検出した地震波速度の不連続構造を説明できることが明らかになった。また、縦波と横波の比がこの領域で上昇していて、水で満たされた割れ目が存在するモデルと調和的であることもわかった。

火星内部の地震波速度構造と研究チームのモデル計算との比較
火星内部の地震波速度構造と研究チームのモデル計算との比較。Vp/Vs=縦波と横波の比。画像クリックで表示拡大(提供:広島大学リリース、以下同)

今年8月に米の研究チームも同様の手法を用いた研究結果(Wright et al. 2024)を発表しているが、片山さんたちのモデルとでは割れ目の形状や空隙率が大きく異なり、地下にある水の分布や存在量に違いが生じている。

モデルの相違点
モデルの相違点。(左)米・Wrightさんたちの結果、(右)片山さんたちの結果

しかしいずれにせよ、両研究とも、現在の火星の地下に液体の水が存在することを示している。今後、地震波の速度構造を明らかにし、液体の水やその塩分に敏感な電気伝導度を観測すれば、火星内部の水の存在やその起源が明らかになると期待される。