太古の火星でホルムアルデヒドが有機物生成に寄与

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太古の火星大気中に存在するホルムアルデヒド内の炭素同位体比の変遷が大気進化モデルによって推定され、ホルムアルデヒドが火星有機物の起源であり、火星上で生命の材料となる分子が生成されていた可能性が示唆された。

【2024年9月25日 東北大学

惑星に生命が誕生する可能性を解明するには、生命の材料となる有機物がどのようにして生まれたのかを理解することが重要だ。有機物の生成過程を知るには、有機物に含まれる炭素の安定同位体比が手がかりとなる。

現在の火星の環境は寒冷で乾燥しているが、地質的な証拠から、約30億~40億年前には火星に液体の水が存在していたと考えられている。その時代に生成された火星の堆積物中の有機物には「炭素13 (13C)」が異常に少ないことが、NASAの火星探査機「キュリオシティ」の探査から明らかになった。また、その炭素同位体比がサンプルごとに大きく異なることも知られていた。しかし、なぜそのような異常な値が現れるのかは謎のままだった。

東北大学の小山俊吾さんたちの研究チームは、ホルムアルデヒド(H2CO)という分子に注目した研究を行った。ホルムアルデヒドは、太古の火星大気中で生成されたと考えられており、地面に堆積後、水中で生命の材料分子である糖を含む複雑な有機物を生成することが知られている。

小山さんたちは大気の光化学モデルと放射対流モデルを組み合わせた火星大気の進化モデルを開発し、約30億~40億年前の火星大気中におけるホルムアルデヒド内の炭素同位体比の変遷を推定した。

その結果、火星大気中の二酸化炭素(CO2)が太陽からの紫外線によって分解される際に、13CO2の方が12CO2よりも分解されにくいため、分解後の一酸化炭素(CO)から作られるホルムアルデヒド中の13Cが少なくなることがわかった。また、その炭素同位体比は、当時の火星の大気圧や地表の反射率(アルベド)、COとCO2の比率、火山から噴出する水素の量などの要因によって変動することが示された。

以上のことから、ホルムアルデヒドを起源とする有機物によって、火星有機物に見られる異常な炭素同位体比、つまり13Cの枯渇を説明できることが明らかになった。太古の火星でホルムアルデヒドが有機物の生成に寄与していたことを示す結果で、生命の材料となる糖などの分子が火星で生成されていた可能性も示唆するものだ。

火星有機物の同位体比のもう一つの特徴であるバラツキのある幅広い値を考慮すると、火星の有機物は、このホルムアルデヒド由来の有機物に加えて、火山ガス由来のものや隕石などによって運ばれる様々な有機物が混ざり合って形成されていたと考えられるという。

太古の火星における有機物生成過程の概念図
太古の火星における有機物生成過程の概念図(提供:Shungo Koyama)

現在進行中の火星探査では、有機物の特徴や形成当時の環境に関する詳細な描像が明らかになりつつある。さらに、日本が主導する火星の衛星からのサンプルリターン計画「MMX(Martian Moons eXploration)」では、火星の異なる時代における炭素同位体の情報が得られると期待されている。研究チームはそれらの情報をもとに、生命の材料となる有機物が火星の「どの時代に」「どのくらい」「どこで」、そして「どの分子で」生成されたのかを解明することを目指し、火星における生命の誕生可能性に迫りたいと考えている。