史上最も明るいガンマ線バーストをチェレンコフ望遠鏡で検出

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観測史上最も明るいガンマ線バーストからの高エネルギーガンマ線をチェレンコフ望遠鏡LST-1が検出した。加速粒子の流れやジェットの多層構造といった、現象の新たな知見が得られている。

【2025年8月5日 千葉大学

ガンマ線バースト(以下、GRB)は、太陽が一生のうちに放出するエネルギーをわずか数秒で放射する、宇宙で最も強力な現象の一つだ。放射時間の長いものは極めて明るい超新星と関係があり、短いものは中性子星同士の合体によって発生すると予測されている。

2022年10月9日、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」とガンマ線バースト観測衛星「スウィフト」がGRB「GRB 221009A」を検出した。その明るさは観測史上最高で、衛星からの検出報告を受けた世界中の望遠鏡が追観測を実施した(参照:観測史上最強規模のガンマ線バーストが発生 / 数千年に一度、史上最強のガンマ線バースト)。

100基以上の望遠鏡群によって、20ギガ電子ボルトから約100テラ電子ボルトまでの高エネルギーガンマ線の観測を南北両方の半球で行う国際実験プロジェクト「チェレンコフ望遠鏡アレイ」(CTAO)でも、カナリア諸島ラパルマ島に建設された大口径望遠鏡1号機「LST-1望遠鏡」が、GRB 221009A発生の翌日から20日間にわたり追観測を行った。

LST-1望遠鏡
LST-1望遠鏡(提供:Tomohiro Inada)

GRB 221009Aの発生が満月期であったため、観測やデータ解析には困難が伴ったものの、LST-1望遠鏡はGRB 221009Aからの高エネルギーガンマ線の検出に成功した。チェレンコフ望遠鏡としては世界で唯一の検出例である。

GRB 221009A の光度曲線
GRB 221009A の光度曲線。右下の黒丸・白丸が LST-1、その他の点が他の実験による観測結果。線はいくつかの理論予測モデルを示し、理論によってはLST-1の結果と矛盾している(提供:The CTAO-LST Collaboration

GRBはブラックホールまたは中性子星の連星で発生、加速するジェットによるものと考えられているが、そのジェットがどのように作られているのかは解明されていない。今回の観測結果は、このGRBのジェットが中心の細い「剣」の周りに、より太くより遅い粒子の「さや」を持つという複雑な多層構造であることを示唆している。GRBの発生機構と高エネルギー粒子加速に関わる新たな知見をもたらす成果だ。「過去の研究でよく仮定されてきた、単純で一様なジェット構造に一石を投じる結果です」(千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター / 東京大学宇宙線研究所 井上進さん)。

ガンマ線バーストの想像図
ガンマ線バーストの想像図。中心のブラックホールからジェットが吹き出ている(提供:東京大学宇宙線研究所/若林菜穂)

CTAOは2029年から本格的な観測開始を目指していて、今回の成果に続きガンマ線宇宙物理学分野をけん引する活躍が期待される。

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