遠方の星形成銀河で探る宇宙の泡構造
宇宙には、ほとんど何もないところや、反対に銀河が多く集まっているところがある。こうした銀河分布のことを「銀河の泡構造」と呼び、とくに銀河が多く集中しているところは「銀河団」と呼ばれる。
泡構造の形成は、暗黒物質(ダークマター)同士の重力相互作用に支配されている。暗黒物質は電磁波では観測できないが、遠方の銀河の形状が銀河団の重力によってゆがめられる「重力レンズ効果」を観測することで分布の様子がわかる。その分布と、見える銀河の分布とを比べると、暗黒物質と銀河の星形成の関係を調べることができる。
広島大学の内海洋輔さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(HSC)を使ってかに座方向の領域を観測し、暗黒物質の分布図を作成した。そして、約1万2000個の銀河の距離(赤方偏移)を測ることで得られた大規模な3次元銀河分布と比較した。
まず、それぞれの構造がよく似ていること、つまり、銀河によって描き出された質量分布は暗黒物質の分布とよく一致しているということが確かめられた。
さらに、銀河の3次元分布を異なる赤方偏移(=宇宙の異なる時代)に切り分け、時代ごとに銀河の分布が質量分布図とどれくらい似ているかを調べた。
すると、遠方銀河団(50億光年先)の周りの星形成銀河の分布が、近傍銀河団(30億光年先)の周りの星形成銀河の分布に比べて、より質量分布図と一致していることがわかった。
これは、遠方にいくと、宇宙の泡構造に対する星形成銀河の寄与がより顕著になるという変化をとらえたことになる。星形成銀河が宇宙の物質分布をなぞる様子が、宇宙の歴史の中で変化してきたことを明らかにしたものだ。
「遠方の宇宙では、今まで無視されてきた星形成銀河が重要な役割を果たすことが新たにわかりました。HSCで得られた質量分布図の中には、さらに遠方の宇宙における情報も含まれていると考えられます。現在開発中のすばる望遠鏡次世代超広視野多天体分光装置「PFS」が完成すれば、より遠方の銀河を一度にたくさん分光することができます。HSCとPFSのデータを組み合わせることで、星形成活動が活発だった時代の暗黒物質と星形成銀河の様子の解明を目指します」(研究チーム)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡: 遠方の星形成銀河でさぐる宇宙の泡構造
- 広島大学: 【研究成果】遠方の星形成銀河でさぐる宇宙の泡構造~暗黒物質(ダークマター)の中で進化する銀河にせまる~
- The Astrophysical Journal: A Weak Lensing View of the Downsizing of Star-forming Galaxies 論文
〈関連リンク〉
- すばる望遠鏡: http://subarutelescope.org/
関連記事
- 2023/09/08 ダークマターの小さな「むら」をアルマ望遠鏡で初検出
- 2023/07/03 宇宙望遠鏡「ユークリッド」、打ち上げ成功
- 2023/05/09 宇宙背景放射からダークマター分布を調査、「宇宙論の危機」回避なるか
- 2023/04/18 宇宙論の検証には、銀河の位置だけでなく向きも重要
- 2023/03/10 小規模な装置でダークマター検出を目指す新手法
- 2023/02/13 ガンマ線観測でダークマター粒子の性質をしぼり込む新成果
- 2023/01/13 「迷子星」の光から銀河団の歴史をさぐる
- 2022/10/27 115億年前の初期宇宙で形成中の原始銀河団
- 2021/11/19 124億年前の星形成銀河でフッ素を検出
- 2021/07/09 ダークマターの地図をAIで掘り起こす
- 2021/05/14 ガスに隠れた遠方銀河
- 2021/01/13 衝突によって星形成能力を失う銀河
- 2020/12/01 宇宙背景放射に暗黒物質・エネルギーの「指紋」の可能性
- 2020/01/07 重力レンズの助けなしで発見された最遠の星形成銀河
- 2019/08/09 初期宇宙の「見えない」銀河をアルマで多数発見
- 2019/06/25 銀河円盤と同じように回転するハローのガス
- 2019/06/06 原始惑星系円盤の偏光観測からダークマターの正体に迫る
- 2019/05/22 高解像度で解剖、遠方宇宙で成長中の銀河
- 2018/10/09 ダークマターの正体はブラックホールではなさそう
- 2018/04/03 ダークマターのないシースルー銀河