遠方の星形成銀河で探る宇宙の泡構造

このエントリーをはてなブックマークに追加
暗黒物質の分布と銀河の3次元分布を直接比較した観測研究から、暗黒物質の集積と銀河における星形成の歴史の関連が調べられ、宇宙では過去に遡るほど、物質分布と星形成銀河分布の関連が深くなることが明らかになった。

【2017年2月1日 すばる望遠鏡広島大学

宇宙には、ほとんど何もないところや、反対に銀河が多く集まっているところがある。こうした銀河分布のことを「銀河の泡構造」と呼び、とくに銀河が多く集中しているところは「銀河団」と呼ばれる。

泡構造の形成は、暗黒物質(ダークマター)同士の重力相互作用に支配されている。暗黒物質は電磁波では観測できないが、遠方の銀河の形状が銀河団の重力によってゆがめられる「重力レンズ効果」を観測することで分布の様子がわかる。その分布と、見える銀河の分布とを比べると、暗黒物質と銀河の星形成の関係を調べることができる。

広島大学の内海洋輔さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(HSC)を使ってかに座方向の領域を観測し、暗黒物質の分布図を作成した。そして、約1万2000個の銀河の距離(赤方偏移)を測ることで得られた大規模な3次元銀河分布と比較した。

銀河団領域
銀河団領域。等高線は質量分布を表し、赤は星形成をやめた銀河、青は星形成中の銀河(提供:広島大学/国立天文台、以下同)

まず、それぞれの構造がよく似ていること、つまり、銀河によって描き出された質量分布は暗黒物質の分布とよく一致しているということが確かめられた。

さらに、銀河の3次元分布を異なる赤方偏移(=宇宙の異なる時代)に切り分け、時代ごとに銀河の分布が質量分布図とどれくらい似ているかを調べた。

距離ごとに分けて銀河分布を調べるイメージ
距離ごとに分けて銀河分布を調べるイメージ図。地球 (観測者) から観測された銀河の3次元分布を描いている。(赤)星形成をやめた銀河

すると、遠方銀河団(50億光年先)の周りの星形成銀河の分布が、近傍銀河団(30億光年先)の周りの星形成銀河の分布に比べて、より質量分布図と一致していることがわかった。

銀河団領域の拡大図
(上)30億光年先と(下)50億光年先の銀河団領域の拡大図。(左)質量分布、(中)星形成をやめた銀河の分布、(右)星形成銀河の分布。30億光年先の銀河団では質量分布に対応する星形成銀河がほとんど見えないが、50億光年先では対応する銀河が増えている

これは、遠方にいくと、宇宙の泡構造に対する星形成銀河の寄与がより顕著になるという変化をとらえたことになる。星形成銀河が宇宙の物質分布をなぞる様子が、宇宙の歴史の中で変化してきたことを明らかにしたものだ。

「遠方の宇宙では、今まで無視されてきた星形成銀河が重要な役割を果たすことが新たにわかりました。HSCで得られた質量分布図の中には、さらに遠方の宇宙における情報も含まれていると考えられます。現在開発中のすばる望遠鏡次世代超広視野多天体分光装置「PFS」が完成すれば、より遠方の銀河を一度にたくさん分光することができます。HSCとPFSのデータを組み合わせることで、星形成活動が活発だった時代の暗黒物質と星形成銀河の様子の解明を目指します」(研究チーム)。

関連記事