天の川銀河の超高速星は大マゼラン雲からの逃亡者
【2017年7月11日 RAS】
天の川銀河の重力を振り切るほどの高速で宇宙空間を移動する超高速星は約20個見つかっている。これらの星の起源として、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールによって放り出されたものだという説や、崩壊する矮小銀河、無秩序な状態にある星団などが考えらてきたが、超高速星のほとんどが決まった空域にだけ見つかるという謎があった。
「これまでの超高速星の起源に関する説明は、私にとって納得のいくものではありませんでした。超高速星のほとんどが北半球、それもしし座とろくぶんぎ座に見つかっている事実に疑問を感じたのです」(英・ケンブリッジ大学 Douglas Boubertさん)。
別の起源として、超高速星は元々は連星系だったという説がある。連星系では、2つの星が互いに接近していればしているほど速度が速くなり、やがて片方の星が超新星爆発を起こすと、束縛を失ったもう一方の星は高速で飛んでいく。しかしこの場合も、天の川銀河内の連星系の場合は超高速星にはなり得ない。超高速星になるほどの速度では回転できない(近づきすぎて連星が合体してしまう)からだ。
Boubertさんたちは超高速星が、天の川銀河のそばにある矮小銀河、大マゼラン雲からやってきた可能性を考えた。大マゼラン雲の質量は天の川銀河の1割しかないため、大マゼラン雲の連星系で誕生した高速星は大マゼラン雲の重力を簡単に振り切って銀河から飛び出すことができる。さらに、大マゼラン雲は天の川銀河の周りを秒速400kmという猛スピードで回っているので、星の速度と銀河の速度が加われば、観測されているような超高速星となるというのだ。「連星から逃亡した星が大マゼラン雲の軌道に沿ってしし座とろくぶんぎ座の方向に放り出されたと考えば、超高速星が観測される位置についても説明がつきます」(ケンブリッジ大学 Rob Izzardさん)。
Boubertさんたちはスローン・デジタル・スカイ・サーベイのデータとコンピューターシミュレーションを組み合わせ、星の誕生や死、銀河の重力の影響を考慮して、大マゼラン雲からどのようにして星が脱出して天の川銀河にやってくるのかをモデル化した。これにより、大マゼラン雲から飛び出してきた星が空のどこに見つかるのか予測が可能となる。
「来年、ヨーロッパ宇宙機関の天文衛星『ガイア』が取得した数十億個の星に関するデータが発表されます。そこには、北半球のしし座、ろくぶんぎ座から南半球の大マゼラン雲の間にわたる超高速星の痕跡がきっとあるはずです。私たちの研究結果の正否はまもなく明らかになるでしょう」(Boubertさん)。
〈参照〉
- RAS News&Press:Fastest stars in the Milky Way are ‘runaways’ from another galaxy
- MNRAS:Hypervelocity runaways from the Large Magellanic Cloud 論文
〈関連リンク〉
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