エンケラドスの地下海で数十億年続く熱水環境

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土星の衛星「エンケラドス」には全球規模の地下海があり、海底で熱水活動が起こっているらしいと考えられている。最新の研究から、エンケラドスの核の多孔度が高ければ、数十億年間は潮汐摩擦によって熱水環境が保たれる可能性が示された。

【2017年11月13日 ヨーロッパ宇宙機関NASA JPL

直径500kmの土星の衛星「エンケラドス」は表面を厚さ20~25kmの氷で覆われており、その下には塩分を含む全球規模の海があると考えられている。氷の一部は薄くなっていて、南極付近での厚みは1~5kmしかない。その南極付近の氷には割れ目が存在し、水蒸気や氷の粒子がジェットのように噴き出している。

タイガーストライプから水蒸気や氷の粒が噴出している様子
「エンケラドス」の南極付近に存在する長く線状に伸びたひび割れ「タイガーストライプ(虎縞)」から、水蒸気や氷の粒が噴出している様子(提供:NASA/JPL/Space Science Institute)

また、探査機「カッシーニ」の観測から、噴出物には塩とシリカの塵が含まれていることが明らかになっており、こうした塵が、摂氏90度以上の熱湯と多孔質な衛星の核の岩石とが作用して作られることを示している。これらの観測結果を説明するには、岩石に含まれる放射性元素の崩壊から予測される熱の、100倍以上ものエネルギーを発生させる必要がある。

エンケラドスからの噴出は、衛星が土星の周りを楕円軌道で公転することで土星の重力による潮汐作用を受け、氷の殻が変形することで起こっていると考えられている。変形によって氷の潮汐摩擦で熱が発生するが、この熱エネルギーだけでは3000万年以内に全球が凍ってしまう。つまり、熱水環境があるとみられる観測結果を説明するには、何か他の現象を考えなければならない。

仏・ナント大学のGaël Chobletさんたちの研究チームは、持続的なエネルギーの生成という観点で、岩石から成る衛星の核の構造と組成についてモデル化したシミュレーションを行った。研究では、核は層を成しておらずゆるいもので、そこに存在する多孔質な岩石は簡単に変形し、水が浸透しやすい性質とされた。

こうした条件下では、海からの冷たい水は核にしみ込むことができ、水が深く沈んでいくにつれて、潮汐摩擦によって水の温度が徐々に上がる。核内を循環する水は周囲に比べて温度が高いため上昇し、細い上昇流によって熱が海底のホットスポットに運ばれ、そこで岩石と強く相互作用し、冷たい海へと熱が放出される。海底のホットスポット1か所から放出されるエネルギーは5GWほどにも達し、これはアイスランドの年間地熱発電量に匹敵する。

エンケラドスの内部
エンケラドスの内部を示したイラスト。1. 塩分の多い海から多孔質の岩石核へ冷たい水が流入、2. 核で暖められた水が細い上昇流となり、岩石と相互作用する、3. 海底のホットスポット、4. 熱と岩石質物質が海中へ運ばれる、5. 氷の殻が局所的に加熱されて薄くなる、6. 裂け目から水蒸気と氷の粒子が噴出する(提供:NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute; interior: LPG-CNRS/U. Nantes/U. Angers. Graphic composition: ESA)

ホットスポットでは秒速数cmの速度で上昇する海中の上昇流が発生し、それによって氷の殻が融かされる。また、上昇流は数週間から数か月かけて海底から小さな粒子を運び、それが氷のジェットとなって宇宙空間へ放出されるという。このモデルでは、ホットスポットにつながる暴走過程は局地的な範囲で起こると予想されており、極域だけ氷が薄く噴出が見られるという観測結果と一致する。

「私たちのシミュレーションは、衛星内部の奥深いところと氷の殻との間で起こる大規模な熱の輸送による全球規模の海の存在と、南極周囲の比較的狭い領域における集中的な活動とを同時に説明するものです。カッシーニによって観測された主な特徴を説明できます」(ナント大学 Gabriel Tobieさん)。

多孔質な核内で起こる岩石と水の効果的な相互作用により、最大で30GWもの熱の生成が1000万年から数十億年以上続く可能性があるという。「将来のミッションでエンケラドスの噴出内の有機分子がより詳しく分析されれば、持続的な熱水環境が生命を誕生させた可能性があるかどうかがわかるでしょう」(カッシーニ・プロジェクト・サイエンティスト Nicolas Altobelliさん)。

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