ナノダイヤモンドからの特異なマイクロ波放射
【2018年6月18日 グリーンバンク天文台】
天の川銀河内のあちこちからは、特異なマイクロ波(anomalous microwave emission; AME)が検出されている。AMEは約20年前に、宇宙マイクロ波背景放射の観測中に偶然初めて発見されたものだ。ある種の粒子がAMEの原因であることはわかっていたものの、正確な起源はこれまで謎に包まれていた。
AMEの起源として最も有力な候補と考えられてきたのは、恒星間空間ではありふれた炭素系の有機分子である「多環芳香族炭化水素(PAHs)」だ。PAHsは、かすかではあるが明確な赤外線によって認識される。
また、極小の炭素の結晶であるナノダイヤモンド、とくにその中でも水素を含む分子が表面に付随した水素化ナノダイヤモンドと呼ばれる粒子も、PAHsとは異なる波長の赤外線を放射する。ナノダイヤモンドは宇宙では、星形成領域内に存在する炭素原子の高温の蒸気から作られると考えられている。
英・カーディフ大学のJane Greavesさんたちの研究チームは、米・国立電波天文台のグリーンバンク電波望遠鏡とオーストラリア望遠鏡コンパクト干渉計を使って天の川銀河内の若い星14個を観測し、AMEの手がかりを探した。
その結果、3つの若い星を取り巻く原始惑星系円盤からAMEが検出された。「原始惑星系円盤からのAMEがはっきりと検出されたのは初めてのことです」(グリーンバンク天文台 David Frayerさん)。
さらにこの3つの円盤には、ナノダイヤモンドに特徴的な赤外線スペクトルがはっきりと見られた。一方、他の原始惑星系円盤では、PAHsの存在を示す赤外線放射は確認されたが、水素化ナノダイヤモンドに由来する赤外線スペクトルもAMEも見られなかった。
今回の観測研究により、水素化ナノダイヤモンドとAMEとのはっきりとした関係が明らかにされ、水素化ナノダイヤモンドが天の川銀河内におけるAMEの起源である可能性が高いこと、PAHsはAMEの起源ではなさそうであることが示唆された。
〈参照〉
- Green Bank Observatory:Diamond Dust Shimmering around Distant Stars: Nanoscale gemstones source of mysterious cosmic microwave light
- natureasia.com:ナノダイヤモンドを伴った宇宙の特異なマイクロ波放射
- Nature Astronomy:Anomalous microwave emission from spinning nanodiamonds around stars 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/10/09 ガス円盤のうねりが示す“原始惑星の時短レシピ”
- 2023/10/10 アルマ望遠鏡が惑星形成の「最初の一歩」をとらえた
- 2023/07/28 巨大惑星に収縮する前の塊、若い星の周囲で発見
- 2023/07/13 塵の塊が衝突するだけでは惑星の種にならない
- 2023/06/30 惑星が誕生するタイミングをとらえる
- 2023/04/03 木星と土星の共鳴が鍵、地球型惑星と小惑星帯形成の統一シナリオ
- 2023/03/23 水蒸気で囲まれた原始星に、太陽系の水が経てきた歴史を見る
- 2023/01/17 原始惑星系円盤の内側に隠れていた大量のガス
- 2022/08/26 原始惑星系円盤の一酸化炭素は氷に隠れていた
- 2022/08/18 原始惑星系円盤の内外で異なる物質組成
- 2022/08/15 形成中の惑星を取り巻く円盤からガスを初検出
- 2022/04/12 太陽系の惑星を急成長させた前線
- 2022/04/08 太陽系と異なるプロセスで形成中の惑星
- 2022/03/11 原始惑星系円盤でジメチルエーテルを初検出
- 2022/01/20 星系への侵入者、原始惑星系円盤を乱す
- 2021/12/22 原始惑星系円盤内のダストが散逸するまでの時間
- 2021/12/16 「天空の降灰」が惑星を咲かせている可能性
- 2021/11/25 塵粒から巨大ガス惑星まで、成長の道筋を解明
- 2021/11/18 移動する惑星が原始惑星系円盤にリングを作る可能性
- 2021/10/25 地球型惑星や水星型惑星の形成につながる中心星の組成