- Cambridge University Press 刊
- 21.4 x 14cm、444ページ
- 2009年7月
- ISBN978-1-108-00554-8
- 価格 2,674円
- ※洋書の価格は為替相場に応じて変動します。ご了承ください。
一言で言って素晴らしい本。1833年のケンブリッジ大学で使用された天文学の教科書が再刊されていること自体が素晴らしいが、もちろん内容も当時の第一線のもの。日本にはこの頃大学自体がなかったし、したがって科学としての天文学を研究する機関もなかった。そんな時代のものなのだ。しかも、著者は日本ではお父さんのウィリアム・ハーシェルに隠れて知名度がぐんと低いが、実は当時の英国の、そして世界の天文学と科学を引っ張っていた、あのジョン・ハーシェルである。
もちろん今から180年近く前のことだから、今の天文学の常識とはかなり違った記述がある。たとえば、本書にはMeteorすなわち流星や流星群の記述が全くない。当時、流れ星が天文現象とは認識されていなかったからだ。流星群も彗星と関係することがわかったのは、本書出版の30年以上後のことである。
また、年周視差から恒星の距離を知ることができることも、原理は説明されているが実際の数値は載せられていない。変光星アルゴルについても、食連星としては説明されていない。恒星自転で表面にある黒点が周期的に見えるようになるからだと説明されているのである。フォーゲルによる分光観測で食連星であることがわかるのは、60年近く後のことだからだ。
しかし、その時代の最先端天文学の実態を知るための、まさに第一級の資料である。ページをめくるたびに評者が感じた驚きと感動を、ぜひみなさんも深く味わっていただきたい。
今ではもちろんその内容ほとんどが、大学での基礎天文学になっているが、グリニジ天文台をはじめ航海天文学や時、位置、暦ばかりでなく、太陽系天体や星団、二重星、変光星などの観測天文学のほとんどが詳細に述べられており、これらの観測を行っておられるベテランアマチュアの方々や、近代天文学史をきっちり抑えようと思っておられる方々に、まさにお勧めの本なのである。