Location:

Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

日本にノーベル賞が来る理由

表紙写真

  • 伊東 乾 著
  • 朝日新聞出版
  • 新書変型判、191ページ
  • ISBN 978-4-06-257481-5
  • 価格 735円

本書はもちろん天文書ではない。しかし、天文が科学である以上、著者の指摘と主張を避けて通ることは不可能であると考え、本書を皆さんに推薦することにした。

それにしても日本の科学者が同時に4人もノーベル賞を受賞した知らせには、さすがに評者もビックリしたが、もうひとつビックリしたのは本書の出版だ。タイムリーもタイムリー、なにしろ本書の冒頭は2008年10月7日(だいたい毎年このころにノーベル物理学賞受賞者の発表がある)に著者のところにかかってきた電話から始まるのだ。結果、本書が年末に出版された。実質2ヶ月強でこれほど内容が濃い新書を書いてしまう著者の実力が恐ろしい。評者は、読むのはいたって速いが、書くのは鈍足。これだけの内容なら、調査期間も含め、ああでもないこうでもないと多分1〜2年はかかってしまうだろう。

肝心の内容は、これまたビックリ、ノーベル財団の戦略を見事に解き明かしてくれる。実はノーベル賞の背後には、原子爆弾を開発した欧米の科学者の後悔がはっきりと見えるというのだ。その証拠に、原爆の父オッペンハイマーと水爆の父テラー、史上最大の水爆を作ったポンテコルボ、初期の宇宙開発プロジェクトで活躍したが核軍拡推進論者のダイソンは、皆受賞していない。それ以外にも、ノーベル財団の見解に合わない科学者は極力避けられることなど、面白いを通り越して重要な指摘であると、評者は感じるのである。

日本のノーベル賞は物理学賞のみならず「対称性」がキーワードで、平和賞でも文学賞でさえも文化的バランスが計られているのだと言う指摘は鋭い。ノーベル財団の戦略をよく理解すれば、今後日本は国際的一流国になるだろうということも、考えるべきであろう。

語り口が優しいので、さぁっと読める本だが、じっくり考えさせられる本でもある。どなたにも(若いこれからの人々には特に)おすすめしたい。

この本を購入する [Amazon.co.jp]