- 角川学芸出版 刊
- 13×19cm、235ページ
- 2014年10月
- ISBN 978-4-02-703546-1
刊行年が本書には平成で記されていたことは本書が日本史の本である証拠だが、ともかく単なる日本史の本ではなく、天文学史の本。安倍晴明が登場するのは当然だが、それは天動説時代の話。平安から鎌倉時代の陰陽師達の怪しげな雰囲気は、現代人には理解を超える。本書でその状況を味わうことができる。だが日本に地動説が輸入され始めた江戸以降は、陰陽師や国学者が如何にそれと戦い敗れ去ったがとても詳しく説明されている。
特に国学者として良く知られた本居宣長や平田篤胤らについての解説は、他の本では読んだことがないほど詳細である。宣長は地動説を理解したわけではないが、仏教者が唱える須弥山説を否定し、地球球体説や歳差について論じたという。また、その代表的著書「真暦考」では太陽暦が正しい、ただし、アマテラスを象徴的太陽神としてではなく天体の太陽と見る解釈を、筆者は本書で初めて勉強した。
篤胤は地動説を論じた。ただし、有名になった天文学者としての渋川春海は、実は神道家の一人だった。故に明治時代西洋天文学に江戸幕府天文方が敗れ去った遠因ともなる歴史の流れが、本書を通じて見えてくるのだ。
現代に陰陽道(占星術)が特にマスコミで復活したのが、高度成長路線が崩壊し始めた1970年以降の反近代主義の風潮、80年代後半のポストモダン思想の下だったという著者の主張は傾聴に値する。ともかく余りお目にかかったことがない日本天文学史の本である。