- 講談社
- 新書変型判、294ページ
- ISBN 978-4-06-257638-3
- 価格 1,029円
プリンキピアとは、ご存知アイザック・ニュートンの本というより、近代物理学の出発点となった歴史的な本のタイトルである。本書はその名著の解説書なのだが、著者が主張されるように「ニュートンの力学」解説書であり、「ニュートン力学」解説書ではない。たかが「の」の有る無しの違いだが、その差は天と地・月とスッポンほど大きい。著者によれば、前者(すなわち本書)は幾何学的手法で、後者は微積分学的手法で力学を学ぶことだそうだ。
幾何学的手法によってこそ、ニュートンの説明手法の面白さ・深遠さを理解することができる(要するにハマる)という。本書は、著者(東大やケンブリッジやボローニャ大学などで素粒子物理学や宇宙論を専攻された俊才)がプリンキピアをニュートン本来の幾何学的手法から解き明かされた本である。微積分学的手法に目をくらまされ続けた評者にとっては、頭をぶっ叩かれたような明快な説明だ。これまでの力学の解説書と比べて、やたらと「天体」という言葉が登場するのは、著者の研究テーマの一つが宇宙論だから、というだけではない。「ニュートンの力学」の理想的な応用の場が、宇宙だからである。
そもそも、本書にも経緯が書かれているように、1680年11月の明け方の空に出現した彗星が、太陽の光芒にまみれて姿を消した後、日没後の空に出現して巨大彗星となったためハレーがニュートンに質問状を送ったことが、ニュートンの力学が世に出たきっかけである。ハレーが「彗星をひきつけ反発させた太陽の磁力が原因では」とたずねたのに対して、ニュートンは「高温の太陽が磁力を持つはずはない」と否定し、天体間に作用する重力で軌道が曲がったのだと指摘したのだという。
というわけで、天体の運動に関心をもたれ、場合によっては軌道計算もちゃんと学ぼうと考えているまじめな天文ファンの皆さんにはぜひおすすめしたい本が登場した。これできっと皆さんは軌道計算の力学的基礎がより強固になるだろう。