- 新潮社
- 四六判、304ページ(上)・288ページ(下)
- ISBN4-10-539303-0(上)・-9(下)
- 価格 上下間とも1,680円
ずばり、名翻訳。訳書とは思えない簡潔流麗な日本語。原文にも理由があろうが、訳者が京大理学部卒の理学博士で、数理学に精通されている点が一番大きい。また、ケンブリッジ大学院で素粒子物理の博士号を取得した原著者の力量は、すばらしい。インド系英国人で、インドの近年の実力が彷彿とする。金融ビッグバンなど「?」付の流行に乗じて怪しげな解説書が横行するわが国だが、この本は上下600ページ弱(用語解説も含む)の大部で、過去〜将来にわたって克明に膨張宇宙論を論じている。理解しやすさは、類書中ピカ1。類書で傍流に置かれ易いツヴィッキーやホイルの記事などは、人柄分析など痛快千万だ。
評者最大の感心点は、直接資料に当たらず結論同士を著者の推論で糊付けしている類書(従って著者の頭の中が覗けない読者にはついていけない)が多い中で、徹底して資料や直接インタビューに基づいている点だ。多分著者は何万キロも調査旅行をしているはずだ。