- 中央公論新社
- 254ページ/253ページ
- 定価 各1980円
著者野尻先生は評者にとって正に先生。五島プラネタリウムで学芸員としてご指導いただき、散々お世話になった方。したがってその方の書評を書くこと自体おかしな話だが、恩返しと思ってお読みください。
世の中では「星の文人」「星の野尻」で通っている先生だが、私にとっては「星の恩人」である。毎月1回五島プラネタリウム隣の東急ゴールデンホール(共に今はない)で行われていた定例会議とパーティーで、フランス料理をいただきながら、3時間ほど懇談いただいたのが今でも思い出深い。評者は理科系出身なので、「そういう見方もあるのだ。一般人への解説にはそれが大切なのだ」と常に勉強していたが、本書中にあるように、山の中や都会でも月がない晩の空には特に季節があり、それは科学的ではなく文学的ですよね。本書の全ページでそれを感じることが可能だ。
もちろん、世田谷の著者のご自宅で拝見した望遠鏡Long Tomや評者の10cm屈折望遠鏡で覗いた二重星・星雲・星団などは文学的・美学的なもの以上に、科学的興味が沸々と湧くもの。だが、どのページを読んでも本書からは文学者が感じる思いがしんしんと伝わってくる。どの話題も1〜2ページの短編で、電車の中でもアッサリと気軽に読むことができる。7年前出版の平凡社刊『野尻抱影 星は周る』も併せてお勧め。