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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ

表紙写真

  • ジョー・マーチャント 著/木村博江 訳
  • 文藝春秋
  • 四六判、288ページ
  • ISBN 978-4-16-371430-1
  • 価格 1,995円

表紙に本書の原題“DECODING THE HEAVENS Solving the mystery of the world's first computer”が記されているので、まだ救われるが、邦題は文科系(評者は文系・理系という言葉を好まない)の人がつけた感じで、いかにも安直だ。著者は立派な女性科学ジャーナリストで、内容も立派な科学書なのだから、出版社にはもう少し科学性を強めた表題をつけて欲しかった。そのためだろう、ある大書店では歴史の書棚に並べられている! 本屋も本屋だ!

評者はアンティキテラの機械の発見を知っていたので、それが差動歯車や遊星歯車などを組み合わせた、まれに見る装置を語る本だとわかり、すぐに書棚から取り出すことができたが、天文や科学書コーナーしか見ない方々は見逃しているかもしれない。

訳文は大方適訳で日本語としてこなれているが、訳者が文科系の方なので、科学性がいまいちだ。例えば、時刻と訳すべきところを時間としているのはいただけない。またユードクソスの同心円説の説明箇所には誤訳があるようだ。

だが、本書の内容は第一級である。よくもまあこれだけ詳細に年代順を追って調べたものだと感心する。ネイチャーやニュー・サイエンティストといえば、世界に冠たる科学雑誌であり、著者はその記者や編集者を勤め上げた、まさに実力者。結果、本書はノンフィクションとして立派な探偵小説風科学書になった。つい最近、アンティキテラの機械の謎は明かされた。発見から解明に至るまでの、4人の主役達の心の動きなども見事に織り交ぜて、しかも高度な位置天文学や歯車工学の知識をわかりやすく展開させた力は、さすがである。いつも本書評で申し上げるように、これは日本と欧米の、おそらく一般的に乗り越えることができない文化の違い(彼我の完璧な相違)である。

天文学史・科学史・技術史に関心がある方はもちろん、古代ギリシア史に広く興味を持ち、なおかつ理科系にも関心をお持ちの方に、ぜひ本書をおすすめしたい。

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