- 大月書店
- 四六変型判、176ページ
- ISBN 978-4-272-44051-1
- 価格 2,100円
これまで本書評で多数の天文家に関わる天文学史書をご紹介してきたが、本書もその一冊に加わるべきもので、もちろん良書である。私は、今から50年近く前に出版された、コペルニクスを語る「太陽よ、汝は動かず」を読んでこの道に入った。本書を読まれてそうなる方がきっとおられるだろう。
著者ギンガリッチ氏は、ハーバード大学名誉教授の有名な科学史家で、コペルニクス研究の第一人者。同著者の既刊「誰も読まなかったコペルニクス」を以前ご紹介したが、そこでもおわかりいただけるように、彼のルポは膨大な情報量を持つ。
本書はダーウィン、アインシュタイン、ガリレオらに続く「オックスフォード科学の肖像」シリーズ11番目の本。従って、コペルニクスの生涯を概観したものだが、コペルニクスに対する新しい見方がふんだんに盛り込まれているので、小冊子ながらひじょうに勉強になる。例えば、コペルニクス最後の著作で地動説を広く説いたことで有名な「天球の回転について」の「天球の」が、コペルニクスの意思に反して挿入されたものだという。原著では単に「回転について」だった。コペルニクスは、天球は回転せず、地球が自転していると主張したが、印刷業者のペトレイウスが「天球の」を挿入した。そのことを評者は本書で初めて知った。
また、コペルニクスが地動説を確信した最大の理由も本書で知った。それは、地球〜太陽間の距離であるという。またコペルニクスは歳差の周期を初めて現代とほぼ同じ値、26,000年と求めたことも、本書で初めて知った。1835年にカトリック教会が「天球の回転について」を禁書目録から外したきっかけは、カトリックの一天文学者が書いたコペルニクスを支持する教科書だったことも、本書で初めて読んだ。その他、ともかく「初めてづくし」なのである。
今年が国際天文年であることも手伝って、ガリレオやケプラーなど、著名な天文学者の伝記が相次いで出版されているが、コペルニクスは一昔前ということもあって、出版物の数は多くない。その意味で、本書は小冊子ではあるが信頼が置ける重要な資料であると、評者は評価している。ぜひ多くの人に読んでもらいたい本の一冊だ。