- 河出書房新社
- A6判、397ページ
- ISBN 978-4-309-46307-0
- 価格 998円
本書は表題からわかるように、いわゆる天文書ではなく古気候学の本である。星や星座の名前がゾロゾロ出てくることはない。いやほとんど出てこない。だが、少なくとも古代史の研究者よりも天文家が読むべき本である。なぜなら、人類史上、天文学はもっとも古くからある科学であり、天文学の母とも見られることがある占星術の多くが、政治に関わって天変をとらえてきたからであり、卑近な例でいえば星座史がかなりの部分、環境とオーバーラップするからでもある。
評者は長年そのように星座史の問題をとらえ、星座史は一種の環境研究であると考えている。そのため、過去の太陽活動や気候変動に関する本を読み続けてきた。本書はその中で最良といってよい本である。なので、ここで紹介させていただこうと思う。
例えば、バビロニアといえば古代シュメール文化の発祥地ですなわち占星術の故郷でもあるが、そことアッシリアその他騎馬民族国家との軋轢が起こった裏には、気候変動にもとづく民族移動という歴史的現実がある。そこらあたりを本書はほぼ200ページにもわたって深くえぐり出しているのだ。本書の記事を知らないと、星座史は正しく語れないと断言してもよい。例えば、著者が述べるように遊牧民と農耕民との交流から、牛の崇拝や、長老を強い牡牛や牧夫になぞらえる感情が芽生え、やがておうし座やうしかい座の誕生につながった。さらに、文明の発展によって技術が生まれ、てんびん座やみずがめ座などがつくられた。
昨今やかましく世間で言われ、政治問題化もしている地球温暖化も、確かに化石燃料の大量消費による面があるが、それ以上に太陽活動の長期変動をよく研究しないと、正しい予測をすることはできない。科学技術の現代だからこそ、それらのファクターをよく分析し、将来に禍根を残さないように考え、判断していかなければならないことを、この本は過去2万年の歴史を通して私達によく教えてくれるのだ。式やグラフが一つも出てこない本だから、どなたでも気楽に読むことができるはずなので、ぜひご一読をおすすめしたい。