- 河出書房新社 刊
- 21.2 x 16.4cm、111ページ
- 2009年8月
- ISBN978-4-309-76129-9
- 価格 1,890円
宮沢賢治の足跡・科学・哲学(特に宗教観)・生活背景・家族や交流者など、評者がこれまで読んだ賢治の紹介書の中でも出色の記事ばかり。とりわけ、第2章「賢治の見た星」を担当された池野氏の文章は、賢治ファンのみならず、天文ファンはぜひ熟読いただきたいものである。その意味で、本書評でこだわらせていただこうと思う。
まず、第2章冒頭の「賢治も愛用したと見られる星座早見」からして目を奪われる。ただしここに掲載されたものは、三省堂が1938年出版したものだから、賢治没後のものだ。それでも、「スレクルヘ」「鳥白」「ススガペ」と記されているのが時代を感じさせて、星座早見ファンにとっては垂涎の資料だ。かつて評者が村山定男先生のコレクションの中から見せていただいたのと同じものかも知れない。基本的には現代の星座早見と変化はないが、先生ご所有のものは厚手のボール紙のしっかりとしたものだった。
「銀河鉄道の夜」の原稿の一葉も掲載され、また1920〜30年代のツァイス天体望遠鏡も、いかにも現代風とはいえない経緯儀三脚が素晴らしい。賢治が見たかもしれない1910年のハレー彗星に関する記事も必見のもの。岩手公論・岩手日報の記事はきっとあなたの彗星情報を豊かにするだろう。
なお、本書は初版が1996年だが、2009年8月に新装版初版として発行された。本書著者のお一人上田氏は、2000年に逝去されている。