- 紀伊國屋書店
- A5判、317ページ
- ISBN4-314-00995-0
- 価格 2,940円
既にご紹介した東洋編も凄い研究書だったが、西洋編も負けず劣らず内容の深い、示唆に富む好書だ。第7章「宇宙の主役は人間に・近代科学の成立」と、第8章「人間はどこへ・現代の宇宙論」は、近代物理学に深い造詣を持たれる著者の力量躍如たるところ。だが、科学思想史を専攻される著者が書いた本書の圧巻は、第6章までのシュメール・ユダヤ教・ギリシャ哲学・ヘレニズム及びローマ・キリスト教・スコラ哲学までの西洋古代・中世宇宙観の展開の方である。
確かな研究書でありながら、一般教養を求める人々にも一言一行含蓄ある説明でわかりやすく説かれた本で、東洋編とあいまって評者は自信を持っておすすめできる。特に洪水伝説と多神教と占星術を誕生させたシュメール民族(メソポタミア文明の立役者)については、実に詳細に記されていて、我が国では貴重な内容である。ユダヤ・キリスト教の唯一神への転化と中世宗教観については、評者は異論を持つが、一つの見方として価値がある。またギリシャ哲学、ことにターレスからヘラクレイデスまでの展開は立派な科学哲学史である。キリスト教やイスラム教の宇宙観も深く掘り下げ検討された内容で、先へ先へと読むのが楽しくなった本だ。広くみなさんにおすすめしたい。