- 勁草書房 刊
- 15.5×21.5cm、359ページ
- 2014年8月
- ISBN 978-4326250998
本書は学術研究書であり愉しんで読む類の本でないことははじめにお断りしておきたい。ある日八王子のK書店天文学書コーナーで本書を見つけたとき、思わずウォーという声を上げた。医学書又は心理学書コーナーではなく、天文学書コーナーだったからではない。かつて心理学者・芋阪良二先生の著書「地平の月はなぜ大きいか」(講談社1985年刊)に深く感銘を受けた記憶が蘇ったからだ。同書は今ではおそらく古書店か図書館にしかないであろう。本書はその意味で実に貴重な、ご紹介に値する本なのである。
本書では、錯視、すなわち天体が地平線近くで大きく見えることは、月ばかりでなく、太陽や星座にもあることを知った。そういえば、低位置にあるオリオン座は天頂近くの時に比べて確かにデカいし、日本でいつも地平線近くをうろつくさそり座を、オーストラリアで見たときは何とまぁチッポケなという感じだった!まるで天井にぶら下がる電灯の釣り具!ただし、月や太陽に比較して星座の錯視は規模がはるかに小さい。
ところが紀元前7世紀から気づかれていたこの現象の解明がまだまだだと言うことを本書で読み、今では天文学や気象光学の範疇ではなく、20世紀には心理学、21世紀には神経科学の研究分野になっていることを初めて知った。筆者はいずれ星ナビ連載「こだわり天文夜話」で大々的に取り上げさせてもらおうと目論んでいる、実に面白い研究テーマなのである。