- 三修社
- 四六判、173ページ
- ISBN 978-4-384-04107-1
- 価格 1,995円
本書との出会いは衝撃的だった。勤務先近くの書店で見かけたとき、「おっ」どころではなく、呆然!という感じだった。なにしろ主役が評者かねてから憧れていたフンボルトとガウスだったからだ。だが購入はやめた。作家が書いたものだったからだ。つまり、科学史の本ではなく、史実に忠実とはいえフィクションを銘打っていたからだ。
次に東京駅近くの書店で見た。このときも迷ったがやめた。本コーナーで紹介するような本だろうか、と躊躇したからだ。だが妙に気になって、翌日自宅近くの書店に行き「ママヨ」と購入した。結局、自分が勉強したかったのだ。第一に天文書ではない本にどのような評を書いたらよいか、第二にドイツでベストセラーになった理由。後者は読み始めてすぐわかった。人間に深く食い込む面白い筆致だからだ。
その昔、3万円のフンボルトの著書(Cosmos:復刻版)を評者が書店で見つけたとき、持ちあわせがなかったのであきらめたが、何とか用立て、次に行ったときは影も形もなく「悔しい!」と激しく落ち込んだ。それほどの名著になぜ邦訳が無いのかわからないが、1799年11月12日にカリブ海で見られた1時間あたり100万というしし座流星群の伝説的な出現記録が詳細に書かれていたはずで、それを心行くまで研究したかった。
そのフンボルトと、小惑星ケレスの軌道計算や最小二乗法などの発明で有名なガウスが主人公の本ならば、小説だろうが何だろうが買って読み、みなさんに紹介すべきだという結論に、長時間熟考の末、到達した。その甲斐はあった。本書は読者に迎合したようなベストセラーではない。本当かどうかは別にして、かなり史実を飲み込んだ、実り豊かなフィクションなのである。登場人物もすごく、文豪ゲーテ、詩人シラー、水成論のヴェルナー、フロギストン仮説のリヒテンベルク、モンゴルフィエ気球のロジェ等々。後から検証できる科学的な記述はきっちり押さえられており、おそらく(卑近な言葉で言えば化けの皮がはがれない)作家で、きっちりと科学(物理はもとより化学・生物・地質そして天文)を習得した人であることは間違いない。いつも申し上げることだが、彼我の相違をつぶさに感じてしまうのだ。2006年世界のベストセラー第2位にランクインしたことがよくわかる。あのダ・ヴィンチ・コードやハリーポッターを抑えてですよ!