- 実業之日本社 刊
- 12.8×18.6cm、272ページ
- ISBN 978-4408133621
- 価格 1,620円
今までのギリシャ神話の本は、簡単な童話から小説風のものまで、言わば文学的なものばかりだった。プラネタリウムで解説する立場の者にとって、枕詞の一つとして知っておかねばならないものにすぎなかった。だが本書を読んで、その見方を改めた。
ギリシャ神話は、神話ではなかった。神話なら少なくとも宗教がある。だがギリシャ神話にはそれがない。リアルな世界を描いたものなのだ。だから、それを研究すると、古代ギリシャ民族の実像が見えてくるのである。古代とわざわざ付けたのは、近代・現代ギリシャ民族とは、説明によれば、1000年の空白があるからだ。
本書によれば、その事実は、ポセイドンの姿を見れば判るという。本来の彼は地震の神だった。しかし、ドナウ川中部の故郷を離れ、現ギリシャの地に南下したとき、原住民の神と融合し、海(津波)の神となったのだ。また、なぜか光明神でかつ疫病神のアポロンがギリシャを嫌いだったか、最高神ゼウスよりも女神ヘラが強いのか、アレスが火星のシンボルになったのはなぜか、これらは世界史を熟考しなければ判らないことが、本書を読んでよく判ったのである。よってギリシャ神話は決して神話ではなく、人類史なのだ。宗教ではない。それに似た日本神話を、改めて見直してみる必要があるのではないだろうか。オリンピックや戦争がギリシャの夏季になぜ限られていたのか等々、本書は本当に面白い。