- 創元社
- 四六変型版、158ページ
- ISBN 978-4-422-21199-2
- 価格 1,575円
書名が本の内容を適切に表現していると決めてかかるのは危険だが、フランス語の原題がズバリかと思えば、そうではなかった。直訳すると「ニュートンと天体力学」だが、天体力学の大家ラプラスやラグランジュばりの式が1つも無いのだ。しかも、内容は日本でほとんど見かけることが無いフランス流ニュートン伝で、一般に英国とは一線を引く、フランス人科学史家特有のニュートン観を読み取ることができる本なのだ。一種ニヒルで冷めた(フランス流に言えばエスプリが利いた)記事に、みなさんはきっと眼を見張るに違いない。
この本を書いたのが自国文化に誇り高いフランス人だということは、本書の至るところに認めることができる。すなわち、ニュートンやハレーを称賛しているようで、知らず知らずのうちにパリ天文台に関係する人々を誉めているのだ。言葉は悪いが、ニュートンらを出汁にしたフランス近代天文学史と言える。評者も小・中・高時代をフランスの修道会が経営する学校で過ごし、フランス人修道士さん達に教わったので、その気質は身に染みている。フランス流エスプリなのだ。
だが、本書最大の特質は、その豊富な図版資料にあり、ほとんど本邦初公開のもの。これは隅々まで眺める価値がある。それもフランスにあった(すなわち日本ではほとんどお目にかかれない)ものや、フランス語文献からのものが多い。
天文雑学に役立つ記事もあちこちにちりばめられている。1つだけご紹介すると、ハレー彗星が命名されたのは、1759年のこと。名付けたのは、やはりフランス人天文学者ラカイユ(1716〜1762)だった。