- 成山堂書店
- A5判、213ページ
- ISBN 978-4-425-43161-8
- 価格 2,940円
本書は、書名からおわかりいただけるように、海洋航行船舶で使われる様々な航海用具の使い方に関する発達史の本である。そもそもこのような種類の本自体、書店の本棚に大量に並ぶことはないが、古代から現代に至るまでのいわゆる位置天文学の進歩をたどることが可能な、特殊天文学史の本といっても良い。なので、この分野の研究を目指す方はもちろん、応用天文学を教養として身につけよう、あるいは17世紀以降海洋国家として大きく進歩した西欧列強がなぜ世界制覇を目指すに至ったかに関心をお持ちの方などは、ぜひお読みいただきたい好書である。
著者は東京商船大学(現東京海洋大学)名誉教授として名を成された方だ。本書中で著者が強く主張なさるように、航海技術の歴史を語るのは、航海計器の発達をたどることと相等しい。だから、磁気コンパスに始まり、ログ、測深儀、アストロラーベ、クロス・スタッフ、八分儀、六分儀、ノクターナル(いわゆる北斗の針)、海図、モールス・無線通信、ロランからGPS、レーダーまで、さまざまな計器についての記事は、これまでに評者が見た書物のうちで屈指のものである。今ではカーナビでおなじみのGPSも、人工衛星による軍艦用測位システムの応用だったことを知っていましたか?
著者がコーヒーブレイクと称して語ってくれる様々なエピソードは、本書に大きく色を添えている。「経度の歴史」、「砂時計」、「SOS」などは特に傑作。またマシュー・フリンダース、ケルビン卿、ビューフォートなどの人物史もおもしろい。遣唐使・朱印船など日本航海術発達の歴史も、なるほどの連続で詳細である。200ページにわたって、まさしく物語のごとく一気に読み通すことができた。