- 日経サイエンス
- A4変型判、159ページ
- ISBN 978-4-532-51164-7
- 価格 2,100円
評者は、ムックを余り購入しない。ムックは基本的に雑誌であり、読後に著者の統一した主張が伝わってこないことが多いからだ。しかし、本書にそれは通じない。むしろ昨年7月10日にお亡くなりになった戸塚洋二先生の追悼書として一貫している。もちろん戸塚先生を初め、多数の著者がそれぞれの立場から、カンミオカンデとニュートリノ天文学を語り尽くしているのだが、戸塚先生のご尽力がつぶさに見えてくるのである。
冒頭のカミオカンデ史からして、まず圧巻!資料として貴重である。たまたま大マゼラン雲に超新星が出現したことがニュートリノ天文学の発展に繋がったことは、すごい話である。評者からしてみれば、その種の天文学は、20年前には電波望遠鏡やすだれコリメータ(X線観測装置)のさらに彼方にあった。だがその後着々と足元を固め、今では超新星のみならず、太陽物理学の理解に欠かすことができないものになってきたことが、本書を読めば手に取るように理解できるのである。そして、現代天文学が現代物理学にどれほど頼っているかも読者は実感できるに違いない。天文学を勉強したいと願う人は、物理学を勉強することが絶対条件ですよ。
2001年11月12日の大事故を関係者がいかに乗り越えたか、戸塚先生の同時期の日記から知ることができる。その後行われた、最高技術を誇る光電子増倍管などによるチェレンコフ光の捕獲、南極点でのニュートリノ観測の詳細や、最大の問題となったニュートリノの質量、タウニュートリノの捕獲、太陽ニュートリノが不足しているという謎の解決など、いずれも難しい内容ではあるが、その詳しさはさすが日経サイエンスである。だが、本書はニュートリノ天文学の論文ではなく、繰り返しになるが戸塚先生の足跡を編んだ追悼書であり、高級天文アマチュアの皆さんにぜひおすすめしたいムックである。