- 白水社
- 四六判、173ページ
- ISBN 978-4-560-03189-6
- 価格 1,575円
著者みずから収集した豊富な図版と資料にもとづく、世界各地の現行および歴史的カレンダーの百科事典。同時に、著者が孝暦学と命名した、現代世界をひも解く一方法を示した本。評者はこの本を画期的なものだと考える。なぜなら、世界は科学すなわち合理性・客観性だけではなく、宗教や民族性などを統一原理として動く側面があるからだ。
暦は、天文台での観測でチェックされているように、昔から天文学と関係が深い、というより天文学の出発点となったものだから、あくまでも科学的・合理的なものである。でなければ、ある民族が国家的統一的に使用できるものにはならない。だからこそ、中国や日本でも国家的に天文台が運営されたのである。
だが、90年代の混乱を経たボスニア・ヘルツェゴビナでは未だに国民の祝日が未制定。イスラム、ロシア正教、カトリック、ユダヤといった各宗教間の抗争を避けるためだそうだ。欧州各国の暦には今でも聖人名が記載されているが、近年聖人とは無縁の名前も記され始めているという。移民の増加が原因だ。日本でも最近旧暦が復権気味で、カレンダーがスピリチュアル的に利用されはじめた。本書にはそのようなカレンダーに関する情報が満載で、文化や民族等について深く考えさせられるのだ。
評者は五島プラネタリウムの書庫で、イスラム暦・ゾロアスター暦・インド暦・イースターなどの計算法を説明した洋書(The Book of Calendars:Frank Parise著 )をしばらく研究したことがある。そのコピーは今も手元にあるが、当時は計算法の習得だけが主眼だったので、背景文化まで考えることはできなかった。本書は各暦法の特徴を具体的に学ぶ上で、たぶん現時点の日本では最良のものだろう。
著者は評者より一歳若い方で、国立民族学博物館教授・総合研究大学院大学教授という立派な肩書きをお持ちだが、学者に似合わず語り口はとても優しい。どなたでも好感をお持ちいただけるだろう。