- 柏書房 刊
- 13.5 x 19.4cm、493ページ
- 2014年4月
- ISBN 978-4-7601-4349-8
副題にあるように、本書は天文学書ではなく歴史書である。書店では「世界史」のコーナーにあったため、筆者はこの本を長期間見逃していた。もし天文学書コーナーに入っていたら、販売された途端手にしていたことだろう。なぜなら主役のコウモリ人間の絵は、筆者が1974年に五島プラネタリウムの解説員になった(正しくは学生時代大学の図書室で愛読していた)ときから現在まで毎月購入している米天文誌「Sky & Telescope」誌で見たことがあったからだ。
本書の面白さは軽薄さにはない。つまり月に神殿があり、樹木ばかりでなくリスなどの動物、月人(ルナリアン:姿形からコウモリ人間:ヴェスペリティオ・ホモ:身長120cm)が著名な実在の天文学者ジョン・ハーシェルの観測で見つかったなどという空想話ではなく、当時の多数の天文学者(月人との光交信を真剣に考えていたガウスなど)が信じて疑わなかった地球外文明存在を強烈に揶揄することが目的だったのだ。
当時ニューヨーク・サンという大衆紙を爆発的に売れさせたという(故に新聞戦争)裏話はあるが、同紙掲載開始時1835年8月25日における執筆者兼編集長ロックは、真面目な常識人でかつ熱心な天文ファンだったというのが本書の結論だ。おかげで、近代天文学史観までも劇的な変化を遂げたのだ。一つの天文学史的史実として熟読されたい。