- 技術評論社
- A5判、240ページ
- ISBN 978-4-7741-3810-7
- 価格 1,869円
本書は天文学のあらゆる分野を手際よくまとめた入門書として出版されたようだが、評者は、天文普及に携わる著者による信念の書と評価したい。
著者は大阪市立科学館の学芸員で、京都大学大学院(宇宙物理学専攻)ご出身の天文博士だが、自ら天文普及に携わると自認されておられる。評者が知る限り、一般に天文研究を志向する人は天文普及という言葉を語らないことが多い。つまり、「天文普及」は、その道で通常一段低く見られているのだ。
だが、そんなことはないはずだ。星を研究することがほんとうにおもしろいことは、アマチュアの方がもっと痛切に感じている。費用をかけても自分で機材を揃えようとする点で、学者よりもアマチュアの方がはるかに強い意志を持っている。学者がすべてに優れているわけではないことを、著者は心得ておられるのだ。
そうしさ作者の思いは、以下のような文章に表れている:「宇宙論はいずれの時代においても常に宗教や理想に影響を受けていた」「天文学者になるためには幅広い知識や学問の基礎が必要である」「夜空の星をつないで作る星座もまさに人間が人間であることの証明」「重力を感じるためには、自分とは動きの違うものと接することが重要」「惑星の場合はエキセントリックな軌道がオーソドックス」「大きな月を持ったことで地球の自転軸の向きが安定した」「自然は可能性のあるものはすべて実現します」などなど。星の解説員が特に気にしなければならない言葉ばかりだ。ここでは詳細を語れないので、本書からみなさんはその意味合いを学び取っていただきたい。
5章の「宇宙論のよくある誤解1〜3」は特におもしろい。「『ビッグバンという大爆発があった』と書くと間違い、」「宇宙には爆発の中心はない」「宇宙論で扱う赤方偏移はドップラー効果によるものではない」「赤方偏移が実際の速度を表すわけではない」なども、天文を語ろうとするすべてのみなさんに理解していただくべき大事な知識である。ベテラン解説員には、ぜひお読みいただきたい本なのだ。