- くもん出版
- 四六変型判、247ページ
- ISBN 978-4-7743-0690-2
- 価格 1,575円
本書評で既にご紹介した「月のえくぼ(クレーター)を見た男」と同じ、くもん出版の児童文学書の一冊。前書の主人公は麻田剛立、本書は表題にあるとおり伊能忠敬、共にプロではないが秀才の日本人科学者である点が共通項だ。
本書では、まずこの秀才が漁具の納屋番と叔父宅所蔵の博物学・算法書の読破で培われたことが示されている。まず冒頭で、早世した母親が北極星(緯度観測に重要)になったと信じ込んだことが、その後の有名な全国測量への伏線になっていることも読み取ることができる。天明三年の利根川堤防決壊による氾濫で測量術を身に付けたこと、寛政六年のオランダ正月が忠敬をが家業から隠居して天文観測を始めるきっかけとなったこと、天文方で師匠となった高橋至時が推奨した最初の本はあの「暦象考成」だったこと、日本一の観測家間重富に天体観測法を学び、自宅に高価な観測器械を装備した観測台を設置し日夜励んだことなど、多数のエピソードが紹介されている。
歴史を専門とする先生だった著者だが、天測について充分すぎるほど著述しており、年譜・伊能隊の測量法の説明なども20ページにわたり、素晴らしい資料になっている。本文200ページあまりのうち、120ページ以上を占める測量旅行の記述は、まさしく圧巻だ。測量隊内での武士と平民の身分の違いによる対立、地元の人々との心温まる協力関係、藩が伊能隊から測量術を盗もうとしたことなど、教訓話を通して歴史を学ぶ趣旨の児童文学でもある。あとがきによれば、著者は50歳過ぎに忠敬の詳しい伝記に接し、感動のあまりうなったと言う。本書は、著者がうなった伝記本よりもさらに、心ある大人の方を唸らせる本であることは間違いない。本書に収められた様々な図版と挿絵・章扉絵図も参考になるが、読後千葉県佐原市の伊能忠敬記念館を訪問・見学することを多数の方々におすすめしたい。
本書初刷は2003年6月だが、第8刷が2007年10月に出版されている。評価が高い本といえよう。