- BL出版
- B5変型判、64ページ
- ISBN 978-4-7764-0351-7
- 価格 1,890円
日本にも日本にしかない天文資料(例えば江戸時代の暦学書や星図など)があるが、欧米にある天文学史資料の方が圧倒的に多い。特に近世以前の天文学史資料は、日本には無いに等しい。そんな差を、ガリレオによる望遠鏡での天体観測開始400年記念に当たって、とみに感じてしまう今日このころ。
今年は当コーナーでガリレオ関連書を何冊も紹介してきたが、本書は中でも出色の一つだろう。天文学史・ガリレオ伝としての内容もさることながら、本書の大きな特徴はこれまで見たことも無い貴重な資料・図版の多さだ。ガリレオの出生証明書(本書説明に記載は無いが、評者の想像ではおそらく所属教会の洗礼証明書)、当時のフィレンツエにおける球技(サッカーらしい)や当時の民衆生活を描いた絵、ガリレオが学んだヴァロンブローサ修道院付学校の外観図、ガリレオが数学教師として勤務したボローニャ大学での授業風景、当時の財布などなど。もちろんガリレオの肖像画、望遠鏡の使用風景、天体スケッチ、宗教裁判の図、そして最晩年を過ごしたジョイエッロ(宝石)荘から墓まで、あらゆるものが図版として紹介されている。
評者には初耳だったが、ガリレオの望遠鏡の素材ガラスが、別れた女性(正式に結婚してはいないが、ガリレオの3人の実子の母)の結婚相手となった人物から調達された、上質で知られたムラート島産のヴェネチアン・ガラスであるということも記載されている。
ガリレオの伝記を執筆し、自身もガリレオの墓の脇に葬ってもらえた愛弟子ヴィヴィアーニや、水銀気圧計で有名なトリチェリ、晩年のガリレオに面会した詩人ミルトンはじめ、第一次裁判のローマ教皇パウルスII世、第二次裁判の教皇ウルバヌスVIII世などの肖像画は西洋史の一つとしても一見の価値が高い。
ガリレオを犠牲者としてしか紹介しない日本の偏向史観によるごくふつうの伝記書とは、やはり本書は根本的に異なる。西洋には、カトリックのクリスチャンとしてのガリレオを、正確な資料に基づき記述できる百戦錬磨の専門科学史家が多数おられるということだろう。子ども向けの体裁ではあるが、まさしく歴史的出版物と評価して良い本書を手にして、みなさんもそのあたりを考察してみるのはいかがだろうか。