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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

望遠鏡400年物語 大望遠鏡に魅せられた男たち

表紙写真

  • フレッド・ワトソン 著/長沢 工、永山淳子 訳
  • 地人書館
  • 四六判、397ページ
  • ISBN 978-4-8052-0811-3
  • 価格 2,940円

既に本書評でおすすめした「望遠鏡以前の天文学」を肉眼天文学史の最高図書とすれば、本書は望遠鏡天文学史の最高峰だと評者は主張したい。評者は学生時代、Kingというイギリスの天文学史家が著した「History of the Telescope」と題する厚い本に大変お世話になった。本書にも、同書はたびたび引用されている。同書は恩師鈴木敬信先生に「おい金井、これを読め」と大学の図書室で示され、以来卒業まで借りっぱなしになった。学力不足で理解できないことは多々あったが、少なくとも20世紀半ばまでの最高の本であることは理解できたのである。

以来、天文学史の本には多々お目にかかったが、望遠鏡を主軸に置いた科学史の本に遭遇することはできなかった。だが、本書は明らかにそれを超えた。なにしろ本書著者は、ばりばりの現役観測家(アングロオーストラリア天文台で膨大な数の恒星視線速度を計測するRAVE計画の責任者)で、西暦2000年にミュンヘンで開催された「新たな千年紀に向けての強力望遠鏡と観測装置」と題された1300人規模の国際シンポジウム主要メンバーだった方。著者の光学に関する豊富な知識と経験は、本書を読めば、ひしひしと伝わる。そのため、評者の雑記帳は、本書から得られたエピソードで溢れかえることになった。最高の歴史的価値がある本として赤ボールペンで汚すのが忍びなく(絶対に古書店に売るつもりはない)、ベタベタ付箋紙を貼り付けていったら、本文300ページあまりの本書になんと47枚を数えることになった。

「望遠鏡の幕開け」と題したブラーエの観測施設と機器から始まり、ガリレオを経て、ハーシェルやロス郷からヤーキス、ヘール、パロマー、ツェレンチェクスカヤ、すばる、VLTまでと、その後の世界の最新かつ未来計画の望遠鏡については、キングの著書をはるかに超えており、評者は本書を「望遠鏡の歴史における聖書」と評してみたい。原注や用語集だけでも恐ろしく勉強になりますよ!

アングロオーストラリア天文台で望遠鏡の運用にあたっている著者は、本書を望遠鏡の「大口径熱」の歴史という。同時多発的に起こった望遠鏡発明の中、特許取得に失敗したハンス・リッペルスハイ。望遠鏡を初めて夜空に向けたガリレオは、その結果として軟禁生活のままこの世を去った。職人技ではなく、光学理論をもとに望遠鏡を改良したケプラーは視力が弱く、実際に望遠鏡で発見をすることはなかった。接眼レンズの原型をつくったホイヘンスは、招待されたチャールズ二世の戴冠式に出席せず、水星の太陽面通過を観測していた、など、望遠鏡発達の歴史の裏にある数々のエピソードがおもしろい。世界天文年にふさわしいタイムリーな一冊。

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