- 南日本新聞社開発センター 刊
- 19.2 x 13.8cm、155ページ
- 2010年9月
- ISBN978-4-86074-125-9
- 価格 1,620円
北尾浩一さんの著書と言えば購入して間違いない本だが、本書もその一冊。特に鹿児島地域の星の民俗が特集されている。前半3分の2がその箇所で、後半3分の1の福澄さんご担当の「もっと気軽に天体観測」「日食を楽しむ」もとても参考になる。
評者五島プラネタリウム時代の先生野尻抱影氏は日本の星・民俗学の先駆者だが、その西日本における正統後継者北尾さんが特に鹿児島地域で採集された珍しい伝承を広く深く語られた本として、本書は特にお勧めすべき研究書である。鹿児島地域でも、島嶼部の南北別、本土部分ごとに伝承を分析なさっているのはさすがである。また、テルハンギという竹篭をやや前かがみ姿勢で担いだときの天体を見る角度(地平高度)についての記事は、いかにも日本農家の人々の生活臭が感じられて素晴らしい研究となった。
第2章の鹿児島の民具と星の記事は、個々の民具が写真で紹介され、都会育ちの評者にとっては、極めて珍しいものとなった。有名なすばるが漁具のスバルと関連されて語られるのは、評者にとって初めての知識である。その他、藁苞(わらつと)、酒桝、馬鍬(まぐわ)、ビク、糸車、杼(ひ)、踏臼(ふみうす)、膳(ぜん)、竈(かまど)など、野尻先生からご紹介を受け、五島で展示して、などの思い出が評者の脳裏に蘇ったのである。
日本人は誰でも本書を気軽に読むことができるはず。そして日本人なら、誰でも日本人固有の星への共感を持つことができるはずである。ぜひ全国のみなさんにご紹介したい本だ。