金井三男さんによる書評
星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)
オンラインニュース編集部による書評
天文読書のすゝめ(星ナビ2010年3〜5月号掲載)
※書籍名、および表紙画像から、Amazon.co.jpの商品ページにリンクしています。
2010年5月号
宇宙を学ぶ
眺めて楽しい星空からもう一歩踏み込んでみると、学問としての顔が見えてくる。ハードルが高いと感じる人も多いかもしれないが、少しずつでも進めば、俄然おもしろくなる瞬間がきっとやってくる。
「月は天文学者の手を離れ、地質学者の分野となった」と言われたのはアポロ計画全盛期だった。2007年に打ち上げられた月周回衛星「かぐや(SELENE)」のハイビジョンカメラがとらえた驚くほどクリアな月面の姿を写真集としてまとめたのが『月のかぐや』(宇宙航空研究開発機構 編著/新潮社/1,365円)である。写真にはさまざまな地形の成因や周囲の地形との関係性が書いてあり、月の観察が地質学的なアプローチの段階に入ったことが、実感として伝わってくる。
月の地質調査がすんだら、次は他の惑星へ出かけよう。『惑星地質学』(宮本英昭、橘省吾、平田成、杉田精司 編/東京大学出版会/3,360円)は太陽系の固体天体の地質について体系的に学べる良書だ。専門的だが決して難解ではない。地球の地形との比較や図版をふんだんに使った解説で、高校程度の地学の知識があれば十分読み進めることができる。太陽系天体に関する記事が、これまでの数倍おもしろく読めるようになること請け合いである。
わからない単語に出会ったら辞典の出番だ。天文学の事典のスタンダードとして『天文学大事典』(天文学大事典編集委員会 編/地人書館/25,200円)を挙げておきたい。約5,000にわたる用語を収録し、基礎である位置天文学から最新宇宙論までの網羅を目指したというだけあって、たいていの疑問やあいまいな知識はスッキリ解決するだろう。B5判という大きさと金額に気が引ける人には三省堂の『新物理小事典』(三省堂編修所 編/三省堂/1,995円)がおすすめ。天文用語はそこそこだが、電子辞書が一般的になった今日でも物理用語の事典を収録した製品は少ないのが現状で、机の引き出しやカバンに楽々収まる小型の事典はちょっとした調べものに重宝する。
『天文・宇宙開発事典』(日外アソシエーツ 編/日外アソシエーツ/12,600円)は、天文学に関係する出来事を年代順に追ったもので、最初の記述は「BC2700年:この頃エジプト人、太陽暦を完成」となっている。地動説の展開、グレゴリオ暦の運用開始、東京天文台の開設、組曲「惑星」の作曲など、古今東西の出来事が淡々と、そして延々と並ぶ。洋の東西で別々に認識していた出来事が意外と近い年代で起こっていることがわかって、ページを繰る手が止まらなくなる。
知識に自信がついた人は『天文検定』(藤井旭 監修/河出書房新社/1,365円)で腕試しといこう。観望会などで初心者相手に披露できそうな雑学ネタ満載の検定本だ。知っているようで知らないとはまさにこのことで、天文学の新しい楽しみ方ともいえそうだ。
宇宙に触れる
大判の写真で見る宇宙の姿はどれも感動的だ。宇宙の果てしなさと美しさをたっぷりと味わいたいときにはビジュアルで見せる図鑑がおすすめ。ビジュアル本の特徴は世界への入り込みやすさだから、気負わずにまずはページを開いてみよう。
図鑑というと子ども向けのやさしいものを思い浮かべがちだが、ナショナルジオグラフィックから出版されている宇宙に関するビジュアル書籍は、大人でも十分読み応えがある。その中でも『ビジュアル ハッブル望遠鏡が見た宇宙』(デビッド・デボーキン、ロバート・W・スミス/金子周介 訳/日経ナショナルジオグラフィック/9,800円)は、写真集といった方がぴったりくるような紙質とデザインだ。ハッブル宇宙望遠鏡の紹介としても充実しており、搭載されているシステムの紹介から打ち上げ・運営のエピソード、20年間の観測成果までをたどっている。ニュースサイトや書籍の表紙などで目にしたことのある画像が多いが、こうして1冊にとしてまとまっているだけでわくわくしてしまう。
一方、『大人の宇宙図鑑』(デビッド・ジェファリス/金子周介 訳/日経ナショナルジオグラフィック/2,480円)は同じくナショナルジオグラフィックの発行だが、やや小ぶりで内容も図鑑的な構成になっている。こちらはCGイラストを中心に人類の宇宙進出にスポットを当てて、進行中の計画と未来のプランを織り交ぜて紹介。子どもの頃夢見た宇宙船と火星基地を、最新の技術でどこまで実現できるか、知りたい人はぜひ。
丸善の「ビジュアル天文学」シリーズは、世界天文年にふさわしく、望遠鏡と天文学に関係した内容だ。『星空の400年』(ホバート・シーリング、ラース・リンドバーグ・クリステンセン/縣秀彦・関口和寛 訳/丸善/3,990円)はガリレオからスタートした望遠鏡の歴史を紹介。初期の大型化、画像記録方法の進化、可視光以外の観測、そして次世代望遠鏡の計画へと、人類の「遠くを見たい」という夢を叶えてきた大きな流れを駆け足でたどっていく。『宇宙へのまなざし』(国立天文台 編/丸善/2,940円)は日本が誇るハワイ・マウナケア山頂のすばる望遠鏡による画像集。美しさももちろんだが、より学術的な見せ方に重きを置き、建造から10余年のすばるの成長と成果を丁寧に紹介している。生のデータが多段階の処理・合成を経て華やかな写真となっていくまでが解説されていて興味深い。『見えない宇宙を観る』(ラ−ス・リンドバ−グ・クリステンセン、ロバート・フォズベリー/岡村定矩 訳/丸善/4,095円)は、X線、赤外線、紫外線、マイクロ波などの電磁波で観る宇宙の姿をクローズアップしている。光とは何か、色とは何か? なぜ電波で観測を行うのか? 見えない光をどのように画像化するのか? 「電磁波に満ちた宇宙では、天文学者は想像できないほど広いパレットから色を選ぶことができる」という言葉に、見えない宇宙の持つ可能性がこめられている。
『黒い太陽のおはなし』(寮美千子/絵:佐竹美保/小学館/1,680円)は、天文に造詣の深い作家・寮美千子と、人気イラストレータの佐竹美保による「日食の絵本」。写真が1枚もないという思い切った内容だが、イラストならではの流麗なコロナや柔らかなダイヤモンドリングの輝きは、はっとするほど美しい。観察の方法から、日本、アイヌ、インドに伝わる日食神話を紹介している。日食の起こる仕組みの解説や、2035年までの世界の日食帯地図もついているので、次のチャンスまでにこの本でモチベーションを高めてほしい。
『現代萌衛星図鑑』(しきしまふげん/漫画:へかとん/三才ブックス/1,680円)は日本の衛星をかわいい女の子に擬人化して紹介している。といっても内容は実にまじめで、計画の背景や技術者たちの思いも余すところなく伝えきっている。偏見で読まずに済ませるにはあまりにもったいない、おすすめの1冊。