月刊ほんナビ 2024年8月号
📕 「専門家から教えを受けてみた」
紹介:原智子(星ナビ2024年8月号掲載)
何歳になっても、自分の知らない知識を教えてもらうことはワクワクする。天文に限らずどんな分野でも技術や研究は日々進化し、それによってさらに新しい謎や疑問がわいてくる。今回は、専門家から教わる姿勢で書籍を読んでみた。
まずは、『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』。科学系ニュースメディア「ナゾロジー」に掲載された「ウソみたいな話を大学の先生が解説する」シリーズの第2弾。今回の先生は、当誌「天文学とプラネタリウム」コーナーの筆者のひとり、平松正顕氏だ。専門は電波天文学で、先月号の同コーナー(vol.242)では電気通信の国際会議に赴いたときの姿を掲載している。そんな“平松先生”が教えてくれるのは、2020年以降に論文として発表された最新の天文情報。「論文の内容なんて難しそう」と思う人もいるかもしれないが、科学コミュニケーションの専門家でもある著者らしい語り口で、とてもわかりやすく楽しく学べる。「天の川銀河は激レア」という項目では、これまで第二の地球探しなどで「我々の銀河は特別でない」と仮定して調べてきたが、周囲の銀河の分布を考えに入れると実は特殊だという。著者は「先入観を持たずに宇宙と向き合うことが必要」とつづっている。
『基礎から学ぶ宇宙の科学』は、大学1年生や2年生が「天文学入門」などの授業で使える教科書を想定して書かれたもの。単なる入門書とは違い、観測の基礎や恒星の物理など学術的な記載が盛り込まれている。文系学生でも使いやすいように数式は厳選され「苦手な読者は魔法の言葉とでも思って」「興味がある読者は数式の表す意味を考えながら」読むとよいという。深く学びたい読者には、天文学で用いられる事柄を数式で表した「ノート」も用意されている。著者の二間瀬敏史氏は多くの天文学書を執筆してきたが、「日本の大学を定年となり台湾の研究所に移り、自分では教科書として使う機会を失ってしまった」と残念がっている。
次は、外国人の先生から教わってみる。『宇宙論をひもとく』は、米・プリンストン大学で物理学を指導する特別教授が、「現代宇宙論」を簡潔に紹介したリトルブック。宇宙誕生時の熱の微弱な名残である宇宙マイクロ波背景放射の精密な測定から、宇宙構造の形成と進化を解説する。わずか134ページの中に宇宙論のエッセンスがぎゅっと詰まっている。さらに、ハードカバーという装丁により、「宇宙」をテーマにした短編小説集を読んでいるような気になる。
『天体力学講義』は、20世紀を代表する数学者のジーゲル氏が1951年~52年にゲッティンゲンで行った講義が基になっている。講義録を作成したモーザー博士との共著として1955年にドイツで発刊され、1971年に英語版が、2024年に日本語版が出版された。約70年間にわたって、天体力学の数学的研究分野で引用され続けてきた名著である。日本語版巻末には訳者による注釈ノートや、原著発刊時からの進展を補う解説と文献リストが追加されている。
最後は、上級者向き教科書の「シリーズ宇宙物理学の基礎」から改訂版を2冊。第3巻の『輻射輸送と輻射流体力学』(2016年初版)には、「偏光の輻射輸送方程式」「輻射流体流の自己相似的な扱い」「相対論的輻射性衝撃波」などが追加されている。さらに、付録部分にカンパニーツ方程式の導出も補われている。第6巻の『ブラックホール宇宙物理の基礎』(2019年初版)には、ブラックホール・シャドウの観測など最近の進展が増補されている。いずれも、初版よりさらに充実した最新情報に仕上がっている。
さて、『星ナビ』WEBコンテンツで昨年末まで当コーナーと一緒に掲載された「こだわり天文書評」を担当した金井三男さんがお亡くなりになった。まさに「こだわり」の詰まった文章が傍らからいなくなってしまい、とてもさみしい。金井さんの安らかな眠りを心からお祈り申し上げる。